清武を評価するモンチの眼力と“錬金術” セビージャで最も重要な人物はSD

木村浩嗣

「清武のテクニックは一級品」

モンチは清武の入団会見で「トップ下でも菱形の中盤でもサイドでもプレーでき、テクニックは一級品だ」と太鼓判を押した 【写真:ロイター/アフロ】

 入団会見でホセ・カストロ会長は「清武はモンチがシルクハットから出したサプライズ」と表現していたが、実はモンチが清武獲得に乗り出したのは2014年の春である。その夏に退団するラキティッチの代役としてすでに名が挙がっていたのだが、条件が折り合わず話は流れた。

 モンチのおかげで財布に余裕ができたセビージャだが、モンチはシビアな金銭感覚の持ち主で、相場より高い買い物は絶対にしない。今年清武を獲ったのも、ハノーファーの2部降格によって適正な価格(移籍金650万ユーロ=約7億5000万円)になった、と判断したからだ。

 そのモンチは清武について2度発言している。1度目は7月5日(現地時間)の入団会見時で、われわれ記者との間に以下のようなやり取りがあった。

――清武のどこが一番の魅力か?

「清武を獲るときに決め手となったのは、局面の打開力と素晴らしいキック力、グラウンド上でパーソナリティーを出せること、個人技もあり、キープ力もあるという点だ。トップ下でも菱形の中盤でもサイドでもプレーでき、テクニックは一級品だ」

――日本人選手はリーガで成功していないし、言葉もまったく違い、サッカーにも生活にも適応するのに苦労する。獲得する時にそんなことは考えなかったか?

「言葉がまったく違うのは今(入団会見で)、気がついたよ(笑)。清武は日本からダイレクトにセビージャに来たわけではない。ドイツに4年間、ニュルンベルクとハノーファーにいた。すでに欧州を経験しているわけだ。私は活躍してくれると信じている。

 素晴らしいテクニシャンだし、サッカーのグラウンド上で話される“言葉”は国際語だ。中レベルの英語力もある。スペイン語はできなくても、グラウンド上でのコミュニケーションができるようにサポートしたいと思っている。言葉を交わしたところ、彼は頭も良い。言葉が障害になるのは確かだが、ドイツでの経験と英語で何とか最初はやっていけると思う。シーズンに入ったら、なるべく早くスペイン語を習得できるよう全力でサポートしたい」

清武の適応のスムーズさに一安心

スペインの地で新たな挑戦に挑む清武。クラブに適応し、活躍することができるか 【Getty Images】

 モンチが清武について語った2度目は、8月末に移籍市場が閉まり、遅い夏休みに出かける直前、クラブの公式ラジオのインタビューに答えたものだ。

「清武の問題は日本人であることだ、と常に考えていた。エキゾチックに聞こえるし、言葉の壁もある。しかし最初の瞬間から、彼は適応のために最大限の努力をしてくれた。彼のプレーは自分の目で確かめたから、サッカー的には疑問はなかった。適応は選手にとって難問なのだが、思ったより時間がかからなかった。サッカー選手として活躍するには、まず人として生活になじめることが大前提だ」

 実際、モンチは清武の適応については頭を悩ませていたようで、人を介して相談を持ち掛けられたこともあった。ドイツ人のマルコ・マリン(13−14)、ルーマニア人のラウル・ルセスク(13−15)、ウクライナ人のイェフヘン・コノプリャンカ(15−16)ら言葉の壁に苦しみ期待外れに終わった“エキゾチック”なタレントたちのことが頭をよぎったに違いない。

 ただ、シーズンが始まった後にモンチと話した時には、清武の適応のスムーズさに一安心している様子だった。監督交代に、11人の獲得と15人の放出、自身の進退問題もあった大変な夏の疲れが癒えた時にでも、また清武のことを聞いてみたい。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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