再建途上のヤンキースに驚異の若手が登場 サンチェスの活躍でPO進出なるか?

杉浦大介

ファイヤーセールから一転…

ヤンキースはアレックス・ロドリゲス(左)の引退など再建途中だが、サンチェス(右)の活躍などでプレーオフ進出の可能性が残る 【Getty Images】

 本来ならこんなはずではなかった。8月1日のトレード期限を前に、ヤンキースはアロルディス・チャップマン、アンドルー・ミラー、カルロス・ベルトラン、イバン・ノバといった主力を次々と放出。ア・リーグ東地区の首位に7ゲーム、ワイルドカードまで5.5ゲーム差を付けられていたその時点で優勝を諦め、“チーム解体”と呼んでも大げさではないファイヤーセールを敢行したのだった。

 トレードの見返りに多くの若手プロスペクトを獲得し、さらに長くチームの看板だったアレックス・ロドリゲスの契約もバイアウト。8月12日にほとんど厄介払いのようにA・Rodの奇妙な“引退試合”を開催し、以降は若手に経験を積ませる場になるはずだった。しかし……このチームらしくない方法で将来に備え始めた途端、ヤンキースは勝ち始めたのだからわからないものである。

 8月3日にサンチェスが3Aから昇格以降、16勝10敗。サンチェス以外にも、今のヤンキース打線にはアーロン・ジャッジ(24歳)、タイラー・オースティン(24歳)、ロナルド・トレイエス(23歳)といった若手が名を連ね、ルイス・セサ(24歳)、チャド・グリーン(25歳)も先発ローテーションの一角を務めている。マンハッタンを歩いていても誰も気づかないような“ベイビー・ボンバーズ”たちには、これまでのチームにはなかったフレッシュな魅力がある。

「重要なのは楽しむこと。今の僕たちは楽しんでプレーし、できる力をすべて発揮している。おかげで良い結果が出ている。(マイナーでプレーしていた)これまでと何も変えず、シンプルに取り組んでいるのが良いのだろう」

 サンチェスはそう語るが、もちろんこの快進撃がいつまで続くかはわからない。

 台頭中の若手が田中将大(27歳)、デリン・ベタンセス投手(28歳)、ディディ・グレゴリアス遊撃手(26歳)、スターリン・カストロ二塁手(26歳)といった“ヤング・ベテラン”とうまくかみ合えば、“白旗を揚げた後にプレーオフ進出”というハリウッド映画「メジャーリーグ」さながらの奇跡が実現するかもしれない。

チーム再建へスタートは上々

 今季最後の30戦中23戦は勝率上位のチームが相手とスケジュールは厳しく、そんなミラクルには一歩及ばないかもしれない。しかし、例えプレーオフ進出を逃したとしても、その結果はトレード期限時の想定通り。シーズン終盤が、ヤンキースにとって意味のある時間になることに変わりはない。

「今は毎試合に勝たなければいけないという意味で、プレーオフのようなゲームを体験できている。(若手選手にとって)すべてが新しい経験になる。プレッシャーを感じてプレーしているはずで、それらは将来に役立つはずだよ」

 ブライアン・キャッシュマンGMが語る通り、今のヤンキースは当面のプレーオフを目指しつつ、同時に未来に向けて大きな一歩を踏み出している。

 今秋のゲームの中で、選手たちは大事な経験を積み、首脳陣は将来を託せる選手を選別できる。近年にないフレッシュなチームを、ニューヨーカーもここまでは好意的にサポートしている。“常勝軍団”の作り直しにはまだ時間がかかるだろうが、スタートは上々――。

 怪童サンチェスの台頭とともに、明るい近未来が見えてきている。激動だった2016年夏は、名門ヤンキースの新時代のチーム作りが始まった季節として記憶されていくことになるのかもしれない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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