岡田オーナー、新シーズンは“現場復帰” 興味深いFC今治「方針発表会」の内容

宇都宮徹壱

方針発表会での3つの注目ポイント

FC今治2016方針発表会に臨む岡田武史オーナー(右)。新ユニホームも披露 【宇都宮徹壱】

 PCでの作業を終えて顔を上げると、20メートル先にキャリーバックを転がしながら「あのお方」が歩いてくるのが見えた。羽田空港第2ターミナル、松山空港行きの搭乗口付近。マスクをしてうつむいているので周囲は気づいていないが、間違いなく、FC今治の岡田武史オーナーである。一瞬、あいさつしようと思ったが、すぐにその考えを打ち消した。

 昨年、私は今治の重要な試合のほとんどを取材している。全国地域リーグ決勝大会や全国社会人サッカー選手権大会(以下、全社)はもちろん、全社予選にも唯一のメディアとして立ち会った。最初の頃は「わざわざ遠いところから取材に来てくれて」と笑顔で迎えてくれた岡田オーナーであったが、最近の反応は「また来たの? 好きだねえ(苦笑)」である。ここで声をかけて、ストーカーと思われるのは本意ではない。

 その日(2月19日)は、FC今治2016方針発表会が、今治新都市スポーツパークで行われることになっていた。12時の受付開始時間に間に合うためには、朝一番の飛行機に乗らなければならない。岡田オーナーも同じ飛行機に乗ることを知り、日頃の激務ぶりを思った。昨シーズンは最大のミッションであった「JFL昇格」を果たせず、今季もまた地域リーグで戦うことになった今治。2年連続で昇格を逃した場合は、「事業縮小も考えなければならない」(岡田オーナー)。昨シーズンとはまた違った意味で正念場となる2016年、FC今治は(そして岡田オーナーは)どんな体制で新シーズンに臨むのだろうか。

 13時から行われた方針発表会では、昨年の2月に多くのメディアを集めて開催されたリスタートカンファレンスに比べると、ずいぶんと会場は狭く(管理施設内ミーティングルームだから無理もない)、演出も実に控え目なものとなっていたが、発表内容は実に興味深いものであった。注目ポイントは3つ。(1)岡田オーナーの「現場復帰」、(2)新スタジアムの建設プラン、(3)杭州緑城(中国スーパーリーグ)との提携である。本稿ではこの3つのポイントについて、方針発表会での内容と独自取材で得た岡田オーナーのコメントを交えながらお伝えすることにしたい。

吉武新監督は「日本のモウリーニョになれる」

昨シーズンはメソッド事業本部だった吉武博文氏。今季は監督としてJFL昇格を目指す 【宇都宮徹壱】

 まず、岡田オーナーの「現場復帰」について。発表前は「総監督就任か」との憶測も流れたが、今季から監督としてチームを率いるのは、昨シーズンまでメソッド事業本部だった吉武博文氏(当人は「降格です」と冗談めかしに語っていた)。吉武氏を現場に専念させるために、それまで担っていた岡田メソッドの構築は、岡田オーナーが引き継ぐ。そのために「CMO(チーフ・メソッド・オフィサー)」という役職を新設し、CEOと兼任することとなった。

「新体制を作る上で(重視したのは)、ひとつひとつ勝っていかなければいけないし、それでいて理想のサッカーを追求していくということ。(そのためには)オレひとりの考えだけでは無理だし限界もある。もちろん、吉武にも足りないところはある。でも、吉武とオレならできると考えた」

 ここで吉武新監督の経歴を簡単に振り返る。地元・大分のトレセンコーチから指導者のキャリアをスタートさせ、JFA(日本サッカー協会)に活動の場を移すと、アンダー世代の代表監督として活躍。11年のU−17ワールドカップ(W杯)ではベスト8、13年のU−17W杯ではベスト16という成績を残している。クラブチーム、そして第1種のチームでの指導歴こそないものの、順風満帆のキャリアを歩んできたと言ってよいだろう。そんな彼が、今年から地域リーグのクラブの監督に挑戦することについては、少なからぬ驚きを禁じ得ない。しかも今回は、2度のW杯を経験している元日本代表監督との二人三脚である。しかし岡田オーナーは、新監督の可能性に絶対的な信頼を寄せていることを明かした。

「吉武は非常に面白い目線を持っているし、発想もユニーク。新しいサッカーができるような予感があるね。以前はちょっと壁のようなものを感じていたけれど、だいぶ変わってきたんじゃないかな。周りの言葉にちゃんと耳を傾けるようになったら、ひょっとしたらすごい監督になるかもしれない。日本の(ジョゼ・)モウリーニョにだってなれると思う」

 四国リーグから日本のモウリーニョが出現するのであれば、せひともその瞬間を見てみたいと思うのは私だけではあるまい。なお監督とCMOとの関係について、岡田オーナーは「指示命令系統をしっかりやっていくために、基本的に(吉武監督の指導に)口出すことはしない」としながらも、「オレの経験が必要な時はいつでも伝える」とも語っている。あくまでサポート役に徹する、と理解してよいだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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