10番を背負う“小さな巨人”中島翔哉 向上心と攻撃力を武器に五輪へ挑む

後藤勝

10番を背負う”小さな巨人”中島翔哉にリオ五輪への思いを聞いた 【スポーツナビ】

 今年1月に行われたリオデジャネイロ五輪アジア最終予選兼AFC U−23選手権で大会MVPに輝いた中島翔哉。チーム創設時から10番を背負うこの“小さな巨人”に対する手倉森誠監督の信頼は厚く、トゥーロン国際大会前の4月22日に右膝内側側副靭帯を負傷するというアクシデントに見舞われたものの、復帰後には6月29日に行われたU−23南アフリカとの親善試合にフル出場。2得点を挙げる活躍を見せ、当然のように本大会メンバー入りを果たした。

 その魅力は何と言っても、ゴールに直結したプレーだ。カウンターとなれば一気呵成(かせい)に走る。決定的な場面を演出する前線へのスルーパスを放ち、サイドからカットインし、コースが空けば躊躇(ちゅうちょ)せず強烈なシュートをたたき込む。体格差をものともせず、敏しょう性と技術、そして判断力を武器に戦う中島は、U−23日本代表に欠かせない存在であり続けてきた。このプレースタイルがどこから生まれ、今後どう変わっていくのか。強敵が待つ五輪本大会へ向け、いっそう己に磨きをかける彼にその本質を聞いた。

常に意識しているのは速さを鍛えること

小さな体でゴールを奪うため、「いかにゴール前に飛び込むか」を常に意識しているという 【スポーツナビ】

――最終予選前まで「勝てない世代」と言われていたU−23日本代表ですが、出場権を獲得するどころか、アジア王者になりました。大会前と大会中で何が変わったのでしょうか?

 変わったというほどは変わっていないのですが、勝つことによって自信を深めていった感じはします。次の試合がまたすぐに来るという環境の中で、どんどん成長していけたのは確かです。試合の期間が短いからこそ、成長のスピードが早くて、チームとしても一体感がでてきたのではないかと思います。仁川(アジア大会、2014年)で負けた後から、ずっと五輪最終予選に向けて誰よりもトレーニングをしてきました。そういう積み重ねがあった上で、大会での経験が力になり、運も手伝って最終的に優勝できたのかなと思います。

――最終予選を制したことで、世界との距離が近くなったという感覚はありますか?

(5月下旬に行われた)トゥーロン(国際大会)を見ると、相手が年下であっても勝てなかったり、良いプレーができていなかったりしましたから、五輪本番になればさらに難しいと思います。アジアで優勝したからやりやすくなった、ということはないですね。

 本大会は最終予選とは全く違う大会になると思っています。(トゥーロンでグループステージB組最下位だった)ギニア相手にも苦しい試合をしていたのだから、よりレベルの高い経験をしている選手が多いナイジェリアを相手にしたら、(五輪本大会のグループリーグ初戦は)そうとう厳しいはず。常に五輪を見据えて向上しなければメダルは獲れない。そこは忘れてはいけない部分かなと思います。

――己を向上させるという意味では、小さな体でゴールを奪うために、常に自身で戦略を考えてきたのだと思います。自分より大きくフィジカルも強い相手から得点を奪うために、何を心掛けていますか?

 いかにゴール前に飛び込むかが大事で、実際にサッカーでは、ずっとそういう選手が点を取っている。ボールを出したらゴール前に走っていくとか、簡単なことをずっと続けられれば、もっと点を取れるようになると思います。

 まずゴールを見る、ということは絶対に忘れてはいけないですし、体は小さいですけれど大きい相手にも負けないよう、フィジカルを作っていかなければならないとも思っています。いま世界のサッカーは強くて速いというのが当たり前なので。だからこそ、速さを鍛えるようにしています。自分の理想とするプレーに必要なことなので、そこは常に意識しています。

ヴェルディの下部組織で培われた“感覚”

感覚でサッカーをやってきたという中島。ヴェルディの下部組織での経験が生きているようだ 【写真:アフロスポーツ】

――以前、判断の速さではなく、フィジカル的な速さの部分でちょっと足りないところがあると言っていましたね。

 外国籍の選手は縦に速く、常にゴールを狙うスピードや迫力があると思うんですけれど、日本人は簡単に止まって切り返して味方を探して、というプレーが多い。それは見ていて面白くないですし、もっと行けよと思うときもある(笑)。

 そういうプレーを自分はなくしたいと思います。守備ではあまり貢献できないので、攻撃で自分が(ボールを)持ったら絶対にゴールまでいくということを意識しています。そのときの速さがすごく大事だと考えています。

――相当に考える力がありそうですね。

 いや、そんなことはないですよ。もともと考えないで、感覚的にずっとやってきたので。たまには考えることも大事だとは思いますけれど(笑)。ただ、サッカーでは、考え過ぎるのもよくないと思います。ピッチ外では、しっかりと自分に足りないことを把握することも大事だと思いますが、ゴール前では考えないでプレーするというのも大事なことなので、それは自分の感覚に任せています。

――そのあたりの感覚というのは、東京ヴェルディの下部組織で伸び伸びとやらせてもらっていたからこそ、培われたものなのでは?

 はい。伸び伸びやらせてもらっていました。

――そうやって伸ばしてきた部分が、チームの状況によってはうまく発揮できている時とできてない時がある気がします。たとえばU−23日本代表に比べると、以前在籍していたカターレ富山では生かし切れていなかった印象があるのですが……。

 富山の時と、J3(FC東京U−23)でやっている時は(どちらも劣勢になる場面が多く)少し似ていると思うんです。周りを生かし、生かされることが大事なんですけれども、弱いチームというのはそういう部分を中途半端にしてしまうことが多いと思うので、そこは改善していく必要があるのかなと。周りに左右される選手にはなりたくないので、どのチームでも活躍できるようになりたいです。

――それだけ肝が据わっていれば、多分どこのチームに行ってもやれるんじゃないかなと思いますが、将来海外でこのクラブに行きたいという目標はありますか? 五輪で活躍したらオファーが殺到しそうですけれど。

 それは来てから考えます(笑)。でも、スペインは行ってみたいですね。スペインが一番レベルが高いと思うので。チャンピオンズリーグもレアル(・マドリー)とアトレティコ(・マドリー)というスペインのチームが決勝に残っていますし(編注:インタビューは決勝の前に実施。結果はPK戦を制したレアルが優勝)、ヨーロッパリーグもスペインのチーム(セビージャ)が優勝しました。もちろんバルセロナもいますからね。

 一番レベルの高いところで楽しくサッカーができればいいかな、と思います。周りの選手がうまければうまいほど自分も成長できる、多分僕はそういうタイプなので。なるべく高いレベルのリーグでプレーしたいと思っています。

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著者プロフィール

サッカーを中心に取材執筆を継続するフリーライター。FC東京を対象とするWebマガジン「青赤20倍!トーキョーたっぷり蹴球マガジン」 (http://www.targma.jp/wasshoi/)を随時更新。「サッカー入門ちゃんねる」(https://m.youtube.com/channel/UCU_vvltc9pqyllPDXtITL6w)を開設 。著書に小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』(カンゼン刊 http://www.kanzen.jp/book/b181705.html)がある。【Twitter】@TokyoWasshoi

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