今の町田ゼルビアには見るべき部分がある 相馬監督が築き上げた“立ち返る場所”

大島和人

ハードワークだけではない戦い方

選手のハードワークに注目が集まりがちな町田だが、それだけでは今の戦いは実現できていない 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 町田の試合を見た誰もが指摘するのは選手のハードワークだ。その一因は町田の選手が相手と近い距離感にいて、一瞬でも早く動き出せているから“頑張っているように見える”からだろう。町田はハードワークを武器にしているが、それだけなら今の戦いは実現できていない。練習も決して軽くはないが、勝負を分けるのはやはり質の部分。松本山雅FCから移籍してきたMF松下純土、昨季はV・ファーレン長崎でプレーしていたDF三鬼海などに尋ねると練習の“キツさ”は町田以上だったという。

 相馬監督は「本当は(練習を)もっとやりたいですよ」と苦笑するが、30代の主力選手が複数いる年齢構成は無視できない。練習で疲弊したら、チームにとってはかえってマイナスだ。「量をやることは難しい。その分質にこだわらなければいけない。『どれくらい練習をゲームに近づけられるか』だと思う。どれくらいリアリティーを持ち、集中してインテンシティーを高くできるかが大事になる」というのが指揮官の説明だ。

 MF森村昂太は「選手が自発的にやることを望んでいる」と監督の意図を推測する。例えば週明けの日に行われる6人でボールを動かすグリッド練習は、相手がつかず、人とボールの動きも自由。だからこそ「個人でどれだけ一歩踏み出していくか、切り替えていくか、もう一回受けに行くか」(森村)が問われる。

 パスを出した後に足を止めないことは大原則だし、相馬監督も声で選手にさまざまなことを促しはする。ただ、最終的には選手が自分で考えなければ、スムーズにアクションを起こせない。森村も「(パスを)出した方向にパワーをかけて出ていくという意図はありますけれど、特にこっちに攻めるときはこう回ってというコンビネーションは言われない。自分たちでどれだけ取り組めるかだと思う」と述べる。

 対人、ゴール前のパターン練習とさまざまなメニューはあるが、どれを切り取っても地道な作業だ。丁寧な基礎の反復を一昨年から積み重ねているから、今の成果もある。キャプテンの李漢宰も「止めて蹴る、止まらずに動くということを意識した練習が多い。サッカーにとって当たり前のことを、反復して高いレベルに持って行く内容が多い」と相馬監督のトレーニングを分析する。

一時的な現象という評価を覆すことができるか!?

評価を下すのは時期尚早だが、今の町田のサッカーには見るべき部分がある 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 相馬監督のメニューからもう一つ感じ取れるのは「自分たちの能力を上げる」「選手を育てる」メニューが多いこと。李も「相手のここが弱点だからこういう練習を入れるという説明を入れたりはしますけれど、基本はいつもやっている内容に多少プラスして工夫している」と説明する。J2には相手の分析、対策を徹底するチームが多い。李も「監督によってはそればかりをやる監督もいて、なかなか自分たちの立ち返る場所がなくなった経験もした」と自らのキャリアを振り返る。一方で町田は“立ち返る場所”がハッキリしている。

 まだ、今季の戦いは始まったばかりだ。昨季のJ2でも昇格初年度の金沢が一時は首位に立つ快進撃を見せたが、結局12位にとどまった。「調子が良い」「勢いがある」という評価も、おそらくそれを一時的な現象と見ているからだろう。

 相馬監督も「『すごいね』って言ってもらえるのはうれしいことですけれど、今の順位がすべてを表しているわけでは全くない」と現実を直視する。町田の5勝はすべてギリギリの展開を制したもの。会心の勝利はまだなく、選手が口にするのは今も喜びや達成感でなく課題だ。チーム全員が一体で戦うというベースが崩れたら、このチームはそもそも残留すら危うい。「強い」という評価を下すのは時期尚早だ。

 しかし順位云々は別にしても、今の町田のサッカーには見るべき部分がある。アグレッシブさと堅さを両立した守備、速さと厚みを両立した攻撃は、きっと他のチームに無い刺激を観戦者に与えることだろう。小田急・鶴川駅からシャトルバスで15分。そんな戦いを見るために、町田市立陸上競技場まで足を運ぶ価値はあるはずだ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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