今の町田ゼルビアには見るべき部分がある 相馬監督が築き上げた“立ち返る場所”
好スタートを切った町田
J2第8節を終えて5勝2分け1敗の2位と好スタートを切った町田 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
「すごいね」「調子いいね」「勢いがあるね」。町田を取材している私も、顔見知りのサッカー業界人からそんな声を頻繁にかけられるようになった。4年ぶりにJ2へ復帰した小さな市民クラブが見せている躍進は、誰にとっても大きな驚きなのだろう。
私が開幕前に『エルゴラッソ』、『J2マガジン』に出した予想順位は15位。町田が恥ずかしくない戦いをするとは思ったが、「下に並べるクラブ」が見つからず困ったことを思い出す。チームを見ると相馬直樹監督が復帰して3季目となり、継続性は保たれている。またMF谷澤達也、FW中島裕希といったJ1経験を持つ大物(町田にとっては)も加入している。ただ、それでも主力の多くはJ3からの持ち上がり。今季の予算規模も約5億円というJ2の最低ラインはクリアしているが、来季のJ1を夢見るような陣容、経営規模ではない。
相馬監督が繰り返し口にしているのは、町田が「J2で22番目のチーム」という自覚。昨季のJ3ではレノファ山口に次ぐ2位。J2・J3入れ替え戦では大分を下して昇格を決めたものの「最後に(2016年の)J2で戦う権利を得たチーム」(相馬監督)であることは厳然たる事実だ。実際に12年の初昇格時は22位(最下位)でJ2を去らねばならなかった。昨年12月6日の昇格決定時にも、相馬監督は「一番下からどう20番より上(=残留圏内)に持っていくか」という姿勢を強調している。クラブが開幕前に掲げた今季のミッションも「まずJ2に定着する。残留して、今後のJ1につながっていくようなスタートを切る」(丸山竜平強化部長)ことだった。
相馬監督が口にする“チャレンジャーの戦い”
現在の町田は、相馬監督がよく口にする“チャレンジャーの戦い”をピッチ上で表現することができている 【写真:アフロスポーツ】
そんな町田がなぜ2位と躍進しているのか。第8節までの戦果を見ると、まず目に入るのは「4」というJ2最少タイの失点数だ。ただ、町田が守備的な戦いをしているかと言われれば、その答えは断じてノー。守備ではラインを押し上げ、前後左右にコンパクトな組織を作って、そこから激しくプレスをかけるところに町田の狙いがある。
千葉の関塚隆監督が「町田はやるべきことがハッキリしていて、選手がチームで戦っている」と評するのも、そんな部分だろう。町田はどの試合でも間違いなく、戦いが“ハッキリ”している。結果は別にしてもJ3時代と同じ狙いを貫き、同じように戦えている。
序盤戦を振り返ると第2節・京都サンガF.C.戦(1−1)で守備の柱・深津康太が負傷。今も戦線から遠ざかっている。他にも主力の負傷が相次ぎ、苦しいやり繰りがあった。そんな中で結果が出ている理由は、チームの底力、意思統一に他ならない。
町田に限った話でなく、サッカーにおいて攻守は一体だ。今季の町田はパスの成功率、本数といった指標でJ2の下位にいるが、それは「縦につける」「相手陣に押し込む」ことを優先しているから。谷澤や中島、FW鈴木孝司といったボールを収められる選手が、前線の受け手になっている。ボールを奪ったらそのままの勢いで前にスイッチを入れ、厚みを持って押し上げる――。それが町田の特徴的な攻撃だ。逆に言えばボールに全員がついていかなければ、このスタイルは機能しない。
GK高原寿康は「1人が強く行って抜かれても次が行ける距離。それが一番良い距離と言われている。その距離に(サポートが)入れていれば、後ろをあまり気にせず球際に強く行ける」と説明する。前線にボールが入ったとき、仲間が良い距離にいればボールを動かしやすいし、ミスが起きてもカバーはしやすい。当然セカンドボールも取りやすい。サッカーにおいて“奪われた直後”はピンチでありチャンス。奪った相手が前へ動き出した直後に奪い返せれば、カウンター攻撃は劇的に効くからだ。
アクションで相手のアクションを封じる。相馬監督がよく口にする“チャレンジャーの戦い”は、そういう試合運びを意味するのだろう。