偉大な卓球人・平野早矢香の引退 福原、石川らに受け継がれたDNA

月刊『卓球王国』

ロンドンで銀、団体戦で見せた影響力

2012年のロンドン五輪団体戦で平野(右から2番目)は、若い福原(右端)、石川(右から3番目)を盛り立てチームの銀メダル獲得に大きく貢献した 【写真:アフロスポーツ】

 個人戦でも輝かしい成績を残している平野だが、その存在がひと際輝くのが団体戦でのプレーだ。世界選手権、五輪の団体戦では幾度もチームの危機を救う活躍を見せてきたが、ただ勝つだけでなく、平野のプレーが持つエネルギーはチーム全体に広がり、逆境を跳ね返す活力をもたらしてきた。それは一言で言えば、周囲にパワーを与える平野の「影響力」であろう。

 ロンドン五輪団体で銀メダルを獲得した平野、福原愛(ANA)、石川佳純(全農)の3人に関して、平野を指導してきたミキハウスの大嶋雅盛監督がこんなことを話していた。

「僕の中では、平野、石川、福原の3人は最強のメンバー。実力だけの話ではなく、福原、石川の良さを平野がうまく引き出し、力を発揮させたと思う。銀メダル獲得は平野のそういうところが大きいんじゃないか」

 大嶋監督と同じように、石川、福原もロンドン五輪後のインタビューで「この3人なら、1+1+1が100になる感じ」(福原)、「平野さんに引っ張ってもらった。チームとしてすごい力が出た感じがある」(石川)と平野の「影響力」を語る。

 互いを認め合い、ともにチームで戦ってきた3人だが、普段は所属チームも異なるライバル同士。ロンドン五輪前には、シングルスの出場枠2枠をかけた熾烈(しれつ)な争いが繰り広げられ、最終的には福原と石川がシングルス出場権を獲得。僅差で出場を逃した平野自身、悔しさはあったが「代表になった選手にも、いろんな人の思いがあるから」と胸にしまい込み、団体戦での勝利にすべてを注いだ。

 そんな平野の姿勢は、メダル獲得という日本卓球界における快挙の大きな原動力となったはずである。石川と福原、2人のようなエースという立場ではなかったが、チームにパワーをもたらす「影響力」を持った平野の存在は日本にとって大きな強みだった。

次世代に受け継がれたチームスピリット

3月の世界選手権で、プレッシャーから開放され泣きじゃくる伊藤美誠(手前)を迎える日本女子チーム。平野のチームスピリットは確かに受け継がれた 【写真:アフロスポーツ】

 3月6日に閉幕した世界選手権クアラルンプール大会で、日本女子は2大会連続となる銀メダルを獲得したが、劇的な試合で日本中を大いに沸かせたそのベンチに、平野の姿はなかった。これまでプレーでも、精神的支柱としてもチームを支えてきた平野の存在は、誰か一人がすぐにとって代われるほど容易なものではない。それでもクアラルンプールでの日本女子チームの戦いぶりは、チーム全員で平野が担ってきたものをカバーしているように感じた。

 チーム最年長となった福原は、プレーはもちろん、キャプテンとして姿勢でもチームをまとめあげ、エース起用の多かった石川はきっちり勝ち星を挙げ、チームに「イケるぞ」というエールを送り、流れをつくった。1試合の出場に終わった若宮三紗子(日本生命)は、懸命にベンチから声援とアドバイスを送り続け、その献身的な姿は他の選手のハートを動かした。

 平野がこれまで示してきた、周囲にパワーを与える「影響力」、それは間近で彼女を見続け、そのパワーを感じてきた福原、石川をはじめとする後輩たちにも受け継がれているし、日本チームのDNAとして残していかなければならない。

 ロンドン五輪後に平野が語った目標は「リオでの団体、シングルスでのメダル獲得」。その目標は残念ながら叶わなかったが、ともに世界、そしてロンドンを戦った福原と石川に、その思いは届いているはず。偉大な先輩が日本チームに残した、チームスピリットを胸にリオでの飛躍を目指す。

(文:浅野敬純/卓球王国)

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