初めての代表招集で際が感じた“差” ポルトガル合宿で出た課題は「宝物」

中田徹

けが明けでのぶっつけ本番

U−23日本代表の試合で左足内転筋を痛めた際(右) 【写真は共同】

 ドルトレヒトの背番号は試合ごとに変わる。4月1日(現地時間)のヘルモント戦でファン・ウェルメスケルケン際がつけたのは、右ウイングを意味する「7」だった。

 試合が始まると際は確かに右サイドに張っていたが、どうもウイングというより“2列目の右”と言った方がいいポジションにいた。ドルトレヒトは従来の4−3−3(ないしは3−4−3)から4−5−1にフォーメーションを変え、中盤を厚くするシステムに変更したようなのだ。選手同士の距離が縮まったせいか、時折ワンタッチ、ツータッチの小気味よいパスを通していた。しかし51分、相手の右サイドバック(SB)のカットインに守備陣が切り裂かれて失点を喫すと、その3分後にPKで追加点を奪われ0−2に。ドルトレヒトは反撃機会も乏しいまま完封負けした。

 右SBを本職とする際にとっては、ぶっつけ本番の右サイドハーフだった。U−23日本代表の試合で左足内転筋を痛めた際は、ヘルモント戦に間に合わせるため治療に専念し、チームの全体練習に合流しないまま試合に臨んだ。

 チームとしても、この4−5−1はぶっつけ本番だった。試合前日練習ではオーソドックスな4−3−3だったらしいが、どうしてもウイングが機能せず、選手の間から「ボールを持てる選手が多いのだから、中盤を厚くした方が良いのでは」とシステム変更を求める声が上がり、急きょ4−5−1のフォーメーションに変更された。

 右SBに専念し、メキシコ戦で浮かび上がった課題克服に専念したい際は、右サイドハーフのポジションに一瞬「くそっ」と思ったが、すぐに「やらなきゃいけない」と気持ちを切り替え、徐々に新ポジションになじんでいった。前半は無難なプレーに終止した際は、後半に入ってから相手ゴール前でのプレーを増やしていき、試合終了目前には完璧なクロスを上げたものの、ジャファル・アリアスのヘッドはバーを直撃してしまった。

「あれを決めてくれないと、サイドの選手としてはアシストがつかないし、悔しいなあ。今日は良いクロスがあがっていたし、点を取れそうなチャンスもあったんですけれどね」

 更衣室でいったん、敗戦の悔しさを流し落としてもなお、にじみ出てくるものがあった。

初めての代表で残った悔しさ

 U−23日本代表のメキシコ戦前半、際はカルロス・シスネロスにぶつかりにいった時、左足を芝生に取られて内転筋を伸ばしてしまった。負傷直後はアドレナリンが出ていたおかげで平気だったが、「これ以上やったら酷くなるという兆候があったので、早めにスタッフに伝えました」という。年代別代表デビューマッチのメキシコ戦は70分間の出場にとどまり、スポルティング・リスボン戦(1−1)も出場を見送られた。

「僕は『(スポルティング・リスボン戦も)いけます』と言ったんですけれど、手倉森誠監督、メディカル・スタッフから『代表は痛みがない状態でやるのが基本だから』と言われ、そこは納得しました。そこでいかに4月1日のヘルモント戦に間に合わせるかを念頭に置いて取り組めました。その結果、今日90分間プレーできました」

 初めての代表で残ったものは悔しさだった。

「自分のプレーは全然良くなかった。メキシコ相手に裏を3本突かれてしまいました。また、裏に蹴られたボールに対し、体を反転させて一気にトップスピードに持っていく部分が自分は遅い。改善しないといけない部分が、かなり自分の中で見えてきました。僕は前に対しては速いんですけれど、後ろへの反応はまだまだ改善できると思います。スプリントを増やして前へ上がって、もっと攻撃に関わることもそう。どれだけ細かくライン調整ができるかもそう。いかに90分間、走り続けるかもそう。本当に細かいところですが、今日のドルトレヒトの試合では、休みの時間が長い。ドルトレヒトはハイテンポで試合が流れる感じではなく、必ず休むところがある。しかし、代表ではそれがない。それこそ長友佑都選手じゃないですけれども、90分間いかにやれるか」

 オランダのマークは一度相手をつかむと、最後まで追い切る方法がオーソドックスだ。しかし、U−23日本代表ではマークの受け渡しを頻繁に行う。

「相手にチャレンジしても、その後、自分のポジションに戻る『チャレンジ・アンド・バック』と手倉森監督は言っていました。そこを自分の念頭に置いて、ドルトレヒトの試合でもちゃんと意識してやっていれば、いずれ代表に呼ばれた時にもできるようになると思います」

 際のポジショニングには、テレビ解説でも注文が出ていた。また、手倉森監督も試合後インタビューで選手同士の修正があったことを認めていた。

「そうです。ハーフタイムに選手同士で話し合いました。自分の中では、後半は1本も裏を取られていないと思います。相手は速かったけれど(トゥエンテ戦で対峙したことのあるメキシコ代表の)ヘスス・マヌエル・コロナほどテクニックがあったわけでもありません。僕もあえて前にいかず、足元なら持たせてもいいと思って対応しました。一回、足元にボールを出させてしまって、自分がプレッシャーをかけにいったら下げることも多かった。それが後半、背後を取られなかった要因だったと思います。後半は改善されたと自分は思っています」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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