「五輪代表で生き残ってみせる」と誓う際 VVV藤田俊哉コーチから見た現在地

中田徹

オランダ2部で屈指のドリブラーをストップ

目標としてきたU−23日本代表に選出された際が、現在の心境を語った 【中田徹】

 3月14日はU−23日本代表のポルトガル遠征(21〜30日)のメンバー発表があった日だった。朝、両親からのSkype(スカイプ)に貼り付けてあった動画で自分の名前があることを確認したファン・ウェルメスケルケン際は、二度寝してから夜のオランダ2部リーグ第31節のゴー・アヘッド・イーグルス戦に臨んだ。

 ドルトレヒトは試合によって背番号を変えており、際は“2”をつけてプレーした。ポリバレント性が注目される際にとって、一番得意とするポジション、右サイドバック(SB)を意味する背番号だ。対峙(たいじ)したのは、オランダ2部リーグでも屈指のドリブラー、ランディ・ウォルテルスだった。

 ドルトレヒトが採用する3−4−3の“3バック”は、センターバック1枚に、両SBが2枚というもの。味方のカバーリングに頼ることなく、相手の3トップとマンツーマンでマークするシステムだ。DFにとっては、ドリブルでかわされたら即、チームの大ピンチにつながる非常にリスキーな陣形である。実際、際は11分、ウォルテルスにドリブルで抜かれてしまい、味方GKロバート・テ・ルーケの好セーブに救われたシーンもあった。

 しかし、この場面を除けばウォルテルスとの勝負は際のもの。際は韋駄天(いだてん)ドリブラーの仕掛けをストップし続け、1対2の数的不利の場面でも落ち着いて対処した。結局、ウォルテルスは71分、ベンチへ退いた。さらに際は途中出場のエルビオ・ファン・オーフェルベークも封じ込んだ。試合は1−1の引き分けに終わったが、際は自身のパフォーマンスに手応えをつかみ、試合後に「ゴー・アヘッドは足が速い選手ばかりだったので、キツかったですけれど、僕自身もスピードを生かしてプレーしているので、カバーできて良かったです」と振り返った。

“ポリバレントな選手”という評価に対する思い

 毎試合、際のパフォーマンスが高みを維持しているかと言えば、そうではない。2月29日のヨング・アヤックス戦(1−4)も際は右SBだったが、デンマーク代表FWビクトル・フィッシャーに対してやや分が悪かったばかりか、自らのクリアミスから裏を突かれ、相手にゴールを許すシーンがあった。ピッチの脇では控えの右SBグレン・バイルがアップをしており、ドルトレヒトのサポーターも「後半から際は交代させられるな」と感じていた。

 しかし、ハリー・ファン・デン・ハム監督は後半開始からバイルを投入しつつも、際をピッチの上に残し、ポジションを中盤に上げることによって彼のポリバレント性を生かした。

「今日の際、MFの方が良いプレーしているな」とドルトレヒトのサポーター。試合終了間際には惜しいシュートも放って、際のヨング・アヤックス戦が終わった。複数ポジションをこなせるからこそ、前半は不満足な出来でも、後半は際に別のポジションで次のチャンスが与えられたのだ。

 五輪では18人しか選手登録できない、スモールセレクションの大会だ。今季、右SB、左SB、アンカー、攻撃的MF、左サイドハーフ、右ウイングでプレーしている際は、五輪に出場するチームにとって1人は欲しいマルチタレントに思えてくる。しかし、“ポリバレント”という言葉が独り歩きすることを、際は少し危惧しているようだ。

「ポリバレントという部分は、手倉森(誠)監督も会見で『今後重要になってくる』とおっしゃっていた。その強みを見いだしてくれた、ドルトレヒトのファン・デン・ハム監督には感謝の気持ちがあります。でも、代表は各ポジションにレベルの高い選手が集まってくる場所ですから、僕は『自分はポリバレントの強みを生かす』と明言する気はさらさらないです。

(かつてはサイドアタッカーだったため)SBもまだ1年しかやっていませんし、中盤はここ4〜5カ月です。この短い期間でも“ポリバレントな選手”と言われるだけ成長できているので、良い感じの成長曲線を描けているとは思うのですが、成長のスピードを維持しつつ、自分と向かい合ってやっていきたいです。もちろん、監督の要求には応えます」

藤田の目に、際はどう映ったのか?

 高校卒業後、オランダに渡ってドルトレヒトとアマチュア契約を結び、リザーブリーグという下積みから、際はスタートした。

「1年目はリザーブチーム、2年目からトップチームに上がって実績を積んで、五輪へ行く」という青写真を描いていたが、加入2年目にチームがオランダ1部リーグに昇格したことで一気にトップチームへのハードルが高くなり、計画の修正に迫られた。

「2年目もリザーブチームでやると目標を軌道修正したんですが、ヨングVVV戦で初めて右SBをやった2カ月後、トップチームに上がって第33節でトゥエンテ戦に出場しました。3年目の今季、プロ契約を結んで開幕からトップチームのスタメン争いに参加し、しっかりレギュラーを獲得すれば自分の計画通りにいくのではないかと思いました。まさか、ここまでうまくいくとは思っていませんでしたけれど」

 際にとって転機となったヨングVVV戦を、VVVでコーチを務める藤田俊哉も見ていた。「テクニックのある良い選手だな。でも守備面では正直目立っていなかった」というのが藤田の際に対する第一印象だった。最近の試合で、際がランディ・ウォルテルス(前述のゴー・アヘッド・イーグルスのFW、元VVV)を封じたことを告げると、藤田は「なら、十分だよね。ランディを抑えられれば自信になると思う。頑張ったね。あそこまで強引に来るウインガーってオランダにはいるけれど、日本代表で誰が浮かぶ!? いないよね」と日本人にとっては異質なウインガーをストップしたことを評価した。

 1年前と比べ、際は藤田の目からどう映るのか。

「ピッチの中で落ち着いて空気を吸えるようになってきた。バタバタしなくなったよね。この間、VVVと試合をした時、際はMFでプレーしてチャンスでゴールを決めなかったわけよ。ああいうところで決めるのが、次のステップなんだよね。本人もそこは分かっていると言っていた。俺にもターニングポイントで『あそこで決めていれば』という思いがいっぱいあるわけじゃん。そこが分かるだけに『次、決める』じゃなくて『今』決めないと。SBをやるんなら、『今』相手を止めること」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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