メソッドと必勝との葛藤の果てに 岡田武史(FC今治オーナー)インタビュー<後編>

宇都宮徹壱

不可解な采配はなぜ起こったのか?

今治の木村監督。難しい状況の中でチームをまとめたことについて、岡田オーナーも「頭が上がらない」 【宇都宮徹壱】

――ちょっと待って下さい。指示系統をひとつにしていなかったというのは、どういう意味でしょうか。つまりスタメンや戦術を考えていたのは木村監督だけではなく、メソッド事業本部長の吉武(博文)さんの意見も反映されていたんでしょうか?

 コーチの意見を聞くのは当たり前のことでしょ。もう1人、フェランも自分の意見を言っていたと思うよ。

──フェランさんというのは、スペイン出身のメソッドのアドバイザーの方ですよね。つまり木村さんは、メソッド事業部の意見を取り入れながら、地域決勝で指揮を執っていたわけですか?

 メソッド事業本部ですがコーチも兼務していました。それは本来16歳までに落とし込むメソッドだけれど、メソッドが机上の空論にならないために、トップチームでテストもしていました。木村にはそのテストをしながらも勝ってほしいという本当に難しいタスクをお願いしていた。実際、彼だからここまでできたと思う。

――いやあ、それは究極的に難しいミッションですよ。地域決勝を勝つことだけでも難しいのに、メソッド側の意見も取り入れながらうまくコントロールして、しかも勝利しろというのは。そもそも合議制というのは、こういう絶対に負けられない戦いの中では、指揮官の決断を鈍らせることにつながるリスクがあると思うのですが。

 そんなことは分かった上で、新しいチャレンジをしていた。そのチャレンジに失敗したということは私に責任があるということだと思っている。ただ、言い訳ではないけれど、世の中と言うのは9割がた、失敗すると思われることにチャレンジしてきた人によって変わってきているんだ。 

――これまで囲み取材で接していて思うんですけど、木村監督ってそんなに我(が)が強いタイプの指導者ではないですよね。

 我は強くないけれど、芯には強いものを持っているよ。ただ僕とは違って、争いごとを好まない男だね。でも、そういうところがある木村だからこそ、彼に託した。それでも選手が迷わないように、時には自分を殺すこともあっただろうし、チームをまとめるために積極的にコミュニケーションをとってくれていました。だから僕は、木村には本当に頭が上がらない。残念な結果に終わってしまったけれども、本当によくやってくれたと今でも思っています。

来季のポジションは「オーナー兼総監督」?

サポーターに深々と頭を下げる岡田オーナー。来季については「もっと現場に出る」ことを示唆した 【宇都宮徹壱】

――その後、今治は福井との第3戦でPK勝ちを収めましたが、和歌山での敗戦(1−2)が響いて、決勝ラウンドには福井が進出することになりました。その福井も、4大会連続で地域決勝に出場しているのに、今回も昇格できなかったんです。

 4回も! それでも行けないの?

――そうなんです。それくらい厳しい大会なんですよ、地域決勝は。そうかと思うと青森のように、初チャレンジでいきなり昇格を決めてしまうチームがあるわけで。できれば岡田さんには、青森が昇格を決めた昨日の福井戦をご覧いただきたかったですね。

 どんな試合だったの?

――すごく堅い試合でした。福井は初戦で浦安に敗れているので、絶対に負けるわけにはいかない。対する青森は、目の前の試合を勝ち続けるというスタンスでずっとやってきて、この試合もCKからのワンチャンスで勝負を決めていました。何というか、決してうまくないし荒削りなんですけど、怖いもの知らずで、非常に勢いのあるチームでしたね。

 怖いもの知らずねえ。いやあ、僕も見たかったんですだけど、何しろ本当に忙しくてね。とはいえさっきも言ったように、来年JFLに上がれなかったら潰れるくらいの覚悟でやっているし、その確率を上げるために関東に遠征するような予算も確保したいと思っています。今日の試合を見ていても、ボール際の強さとか勝ちたいという気持ちとか、やっぱり四国リーグとはぜんぜん違うんでね。やれる限りのことはやろうと思っています。

――あらためて、今大会で得た教訓というのは何だったんでしょうか?

 まず、メソッドを落としこみながら戦うという意味では、この1年は必要だったと思っています。ただ、そのためにチームとして体制を一本化することは、来年やります。それとやっぱり、今の戦力では厳しい。特に守備でね。今のメソッドは、どちらかというと攻撃重視なので、もっと守備のメソッドもしっかりやらないといけない。

──確かに、ヤマタク(山田卓也)が入ったことでかなり改善されましたけれど、組織的な守備という面ではまだまだ改善の余地がありますね。他に何かありますか?

 やっぱり僕自身がもっとグラウンドに出て、コントロールをしないといけないかなと感じています。来年はそういうポジションで活動していこうかなと。

――オーナー兼総監督、という感じですか?

 まあそんな感じかな。とにかく来年こそはJFLに上げないと、僕は自己破産になってしまうからね(笑)。奥さんに離婚されないためにも頑張りますよ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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