「来年、昇格できなかったら厳しい」 岡田武史(FC今治オーナー)インタビュー<前編>

宇都宮徹壱

取材に応じる岡田オーナー。今季の目標「JFL昇格」はなぜ果たせられなかったのか? 【宇都宮徹壱】

 FC今治に関する2015年最後のコンテンツは、岡田武史オーナーへのインタビューである。取材が行われたのは、11月21日から23日まで行われた全国地域リーグ決勝大会(地域決勝)決勝ラウンドの会場、高知の春野総合運動公園。大会最終日の23日、今治の山田卓也が運転する車で岡田オーナーが視察に訪れた際に、じっくりと話を聞くことができた。

 今治にとっての2015年は、まさに飛躍の年となった。トップパートナーのデロイト トーマツ コンサルティングをはじめ、地域リーグクラブとしては破格のスポンサーをいくつも獲得。アドバイザリーボードメンバーの古田敦也氏(野球解説者)や日比野克彦氏(アーティスト)といった各界の著名人がたびたび今治のホームゲームを訪れて話題にもなった。さらに、そうした動向をメディアが繰り返し報じたことで、今治での岡田オーナーの試みはサッカーファンのみならず、一般の人々にも広く知られることとなった。

 そうした成功があった一方で、今年の最大のミッションであった「JFL昇格」は果たされなかった。いや昇格どころか、結果は地域決勝1次ラウンド敗退という非常に不本意な結果に終わり、今治は高知での決勝ラウンドにたどり着くことさえ叶わなかったのである。果たして、ミッションが不履行に終わった原因は何だったのか? 前編となる今回は、地域決勝が終わってからの心境、そして四国リーグと全社(全国社会人サッカー選手権大会)を振り返ってもらった。(取材日:2015年11月23日)

今季の今治は「まだまだ甘いところがある」

地域決勝で昇格を決めた青森(青)と浦安。岡田オーナーは「四国リーグとの差を痛感した」と語る 【宇都宮徹壱】

――まず今回の決勝ラウンド3日目を視察された感想からお聞かせください。

 今日の試合(ブリオベッカ浦安対ラインメール青森)は、すでに(JFL)昇格が決まっている同士の対戦だったので、両チームともかなりメンバーを変えてきていましたよね。われわれにも(決勝ラウンド進出の)チャンスはないわけではなかったけれど、客観的に見ると劣る部分はやっぱりあるかなと。ひとつはフィジカル。それから守備の強さと粘り強さ。勝負に懸ける球際での戦う姿勢。そういったものが、まだまだ甘いところがあるなと。四国リーグでは通用したことが、このレベルでは通用しないという意味では、ここにたどり着けなかったのは当然だったと思います。

──来季からJFLでプレーすることになる、浦安と青森についての岡田さんの評価はいかがでしょうか?

 どちらかと言うと浦安を見て、ウチとの差をすごく痛感した。個の能力、特にフィジカルね。それと、ボールを止めて蹴るっていう基本技術。すごいことをする選手はいないけれど、優勝した青森と比べてもずば抜けていた。これくらいの個の能力があれば、確実に上がっていけるんだろうなというのを感じたね。青森に関しては全社でウチが負けた相手だけど、身の程を知っていて、とにかく目の前の試合に勝つことに徹しているなと。現状の戦力の中でどうやって勝つかということを考えているなと感じた。

──思えば昨年11月に株式を取得してから、クラブオーナーとしてずっと走りながら考える、あるいは考えながら走り続ける1年だったと思います。今大会の結果、四国リーグで足踏みすることになりましたが、その点についてはいかがでしょう?

 チームとしても会社としても、これでJFLに上がっていたら目の前にあることに必死で、来年も自転車操業になっていたと思うんだよね。僕に関して言えば、ひとつ上のカテゴリーに上がったことで、またスポンサー探しに走り回らなければならなかった。でも(昇格がなくなったことで)スポンサーはあと1年継続してくれるし、今年みたいにスポンサー集めに半年ほど走り回る必要もなくなった。その分、時間的な余裕が生まれるわけです。そういう意味では現場も会社も、きっちりした土台を作る時間を与えられたとポジティブにとらえていますね。

「来年もダメだったら会社がなくなる」?

デロイトのロゴが入ったユニフォームのお披露目。「共感スポンサー」をお願いできるのは2年まで? 【宇都宮徹壱】

――地域決勝の1次ラウンドがあのような結果に終わって、FC今治の今シーズンが終わったわけですが、その後の岡田さんの動きについて教えてください。おそらく自治体やスポンサーのあいさつ回りなどでお忙しかったと思いますが。

 敗退が決まったその日に、今治に戻って全フロントに招集をかけて、今からスタートするために、それぞれがやらなければならないことを挙げさせました。僕は謝りにいかなければならないスポンサーさんのところを回って、それからすぐに来季の補強のために知っているGMに片っ端から電話をかけましたね。そちらにウチに出せる選手はいるか、しかしお金はない、という感じで(笑)。

――ということは、とにかく忙しくて落ち込んでいる暇はなかった?

 やることは山ほどあるからね。負けた時はめっちゃ悔しかったけれど、落ち込んでいる場合でもないし。ただね、スポンサーさんとお話していても「やっぱり2年までかな」というのはありますね。

――2年まで、と言いますと?

 僕は「共感スポンサー」と呼んでいるんだけれど、今のスポンサーさんには四国リーグのクラブに対して対価値以上のものを出していただいている。でも、それをやっていただけるのも2年までかなと。もし来年も上がれなかったら、ウチは本当に倒産に近い状態、またはかなり事業内容を縮小することも覚悟しなければならない。もともとわれわれは、そういうリスクを覚悟でスタートしていますから、スタッフにも「来年もダメだったら会社がなくなると思え」と言っています。

――となると、来季はどんなことをしてでもJFLに昇格しなければならないと。

 確かにそうなんですが、だからといって育成を全部カットしてトップチームにすべての予算をつぎ込んでしまうのでは、われわれの存在価値はないわけですよ。今いるスポンサーさんたちは、われわれのやろうとしていることに共感して集まってくれている。だからいくら昇格したいと言っても、そこを見失ってしまってはいけないんです。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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