「来年、昇格できなかったら厳しい」 岡田武史(FC今治オーナー)インタビュー<前編>

宇都宮徹壱

元日本代表コンビへの感謝

元日本代表の山田(左)と市川。半年限りのピンポイント補強だったが「彼らはよくやってくれた」とは岡田オーナーの弁 【宇都宮徹壱】

――今季のFC今治について、まずは四国リーグから振り返っていただきたいと思います。結果として優勝することができましたが、高知Uトラスターとのデッドヒートが続いて、同勝点(37)ながら得失点差2での紙一重の優勝となりました。この結果は予想外だったのでしょうか?

 今季もトラスターとアイゴッソ(高知)、そしてウチの3チームで優勝争いをしたんだけれど、内容的にはウチのほうがいい試合をしているという自負はあった。確かにトラスターに敗れてからは、ウチが追いかける展開が続いていたけれど、四国リーグで優勝することについては、それほど不安はなかったですね。リーグを見ていて、このレベルだったら何とかなるという感覚はありましたし。

――前期リーグが終わった段階で、山田卓也と市川大祐という、日本代表の経験のあるベテランを加入させました。山田は今年で41歳、市川もひざのけがが完全に治った状態ではありませんでした。それでも彼らにオファーした理由は何だったのでしょうか?

 僕が彼らに求めたのは試合で役に立つことよりも、プロ意識だったり戦う姿勢だったりというものをチームに注入することだったんです。それと経験値。現実的に考えたら、もっと走れる若い選手を入れたほうが良かったのかもしれないけど、山田も市川も僕が期待していたことを本当によくやってくれたと思っています。特に山田については、彼が入っただけで練習がガラッと変わった(笑)。それまでは、勝負に対する執着心とかボール際の強さとか、そういうベーシックなところがものすごく甘いと感じていたんですよ。ところが山田は、練習からバシーンと当たりにくる。みんな驚いていましたね(笑)。

――市川は、けがでなかなか試合に出られなかったのが残念でしたね。

 確かにそうだね。それでも若いやつらを飯に連れていったり、育成のトレーニングにも顔を出してくれたり、サポーターの集まりにも積極的に参加してくれたり、ピッチ外の部分で本当によくやってくれていたので感謝しています。

──2人とも、今季いっぱいで契約満了なんでしょうか?

 彼らは半年限定、ピンポイントでの補強でした。お金は資本金から出していて、来季も雇うのは不可能であることは彼らも理解してくれました。もしJFLに上がって、ちょっと給料を落としてくれたら、あるいは来季もっていう話になったかもしれない。でも、四国リーグでは雇えないのが現状ですね。

「これはまずいぞと思っていたらその通りに」

地域決勝の前哨戦となった全社は2回戦で敗退。3連戦をシミュレーションする機会は失われた 【宇都宮徹壱】

――地域決勝の前哨戦として、10月に岩手で全社が行われました。今治は初戦で北信越チャンピオンのサウルコス福井と対戦して、2点リードされてから追いついて、延長戦の末に逆転というスリリングな展開だったようですね。残念ながら私は、その試合は見られなかったんですが。

 僕も次の2回戦から岩手に入ったので、見ていないんですよ。ただウチの場合、ある程度のレベルのチームと試合すると、必ず失点する。逆によく逆転したなと思いましたよね。翌日の青森戦は、相手がすごく守りを固めてきて、後半の早い時間帯(11分)にカウンターからやられたんだけど、そのあたりの危機感がまったくないよね。「俺らのほうがいいサッカーをやっている」と思ってプレーしているのが見え見えで、これはまずいぞと思っていたらその通りになった(苦笑)。

――あの試合に1−0で勝利した青森は、ベスト4まで勝ち進んで地域決勝の出場権を獲得し、最後にはJFL昇格まで勝ち取りました。逆に今治が勝っていたら、青森の昇格の夢はあの時点で絶たれていたわけで、そういう意味でも両者にとってターニングポイントとなった試合でしたね。これはコラムでも書きましたが、今治があの大会で3連戦のシミュレーションを経験できなかったこと、そして他の地域リーグ王者と対戦できなかったことは、結果として地域決勝の戦いに少なからぬ影響を与えたと思います。

 現場のスタッフも「3試合を戦う」というのを合言葉でやっていたんでね、確かに残念な結果だったと思います。ただ、浦安だって1回戦で負けたんでしょ?

──浦安の齋藤芳行監督に聞いたんですが、本当は全社でも優勝を目指していたものの、主力選手が直前にけがでリタイアして、バタバタしている間にやられてしまったみたいです。ただ彼らの場合、関東リーグを日曜日に戦って、次の月曜日には同じメンバーでJクラブの2軍と練習試合をしていたらしいんですよ。そうやって連戦に耐えるトレーニングを3年続けていたのが、今回の地域決勝で生かされたという話をされていましたね。

 ああ、そうだったんですか。それは参考になる話ですね。ただそれは、関東リーグだから可能だったとも言える。われわれの場合、近くにそういう試合相手がいないんですよ。遠征するにもお金がかかるし。

――確かにそうですね。ところで全社で青森に負けたときは、ずいぶんと憮然とした表情に見えましたが、試合中も相当にイライラされていたんでしょうか?

 まあ、イライラしていたけれど(笑)、口は出さない。ただね、来年はもう少し時間もできるし、もう少し現場に絡んでいくことも考えています。練習方法とか、試合のやり方とか、自分が経験したことをもっと伝えるべきかな、とは思っていますね。

<後編につづく>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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