マグマを吐き出す和田スピリット 「競馬巴投げ!第106回」1万円馬券勝負

乗峯栄一

深層海流が武庫川あたりにどういう影響を与えるか

[写真1]赤い円で囲んだのが阪神競馬場の西にある甲山(かぶとやま) 【写真:乗峯栄一】

 大阪四天王寺には彼岸の日に「日想観(じっそうかん)」と言って、西の門の向こうに夕陽が沈む。西方浄土の極楽の地と言われているから、その夕陽を拝む法要がある。聖徳太子創建の頃は、西の門は瀬戸内海に直結していたと思われ、彼岸の日にだけ門の向こうの海に沈むというのは、さぞ幻想的なことだっただろう。

 しかし聖徳太子といえば、約1400年前の人間だ。その頃から太陽の軌道は動いてないのだろうか。太陽の軌道は変わらないとしても日本列島は少しずつズレていってないか。春秋の彼岸の中日に決まって四天王寺西門のところに陽が落ちるというのは、ほんとに1400年変わってないのかと少々考える。

 競馬は芝コースの上を馬が走るということで、芝の状態、風の向き、4コーナーの傾斜角度など、色々なファクターを問題にする。

 まず天候だが、気象予報士が気象庁からのデータで勝手に「明日は晴れ、うーん、でもちょっと降るかも」などというようではいけない。深層海流というものがある。大西洋グリーンランド沖まで北上したメキシコ湾流は水分の氷結によって急激に塩分を増し、その重さのため海底深く沈み込む。この沈み込んだ高濃度海水は大西洋を南下、ウェッデル海で南極深層海流と合流、太平洋高緯度まで深海4千メートル6万キロの行程を約2千年かけて進む。誰も気づかないが、この深層海流が2015年の9月下旬の武庫川あたりにどういう影響を与えるかを考えないといけない。

潮位、太陽消滅、弥勒菩薩……大変だ

[写真2]リアルスティールの実績はここで断然 【写真:乗峯栄一】

 ほとんどの競馬予想家が問題にしないが大事な問題がある。潮位だ。9月27日は月齢13・8の中潮、しかし翌28日が満月だから、かなり月の引力は強い。上げ潮の月齢13日は晴れやすい。しかし潮位に着目すればそれでいいというものではない。潮の干満は月の引力によって起きる。これは周知のことだ。「海が割れるのよ、道が出来るのよ」と歌ってスターになったチンド物語の天童よしみは、まず月の引力に感謝した。これも周知の事実だ。でもまだ実はそこだけじゃない。

 月は毎年3センチずつ地球の軌道から離れていっている。潮の干満もほんの少しずつ年々小さくなっていき、月が宇宙空間に飛び出す300億年後には競馬への影響も全く考えなくてよくなる。毎年毎年どれぐらい減算して月の引力を競馬予想に入れればいいのか“潮位競馬予想家”は今それで悩んでいる。

 しかし朗報もある。300億年までいかなくても、その前、50億年後には太陽が消滅して地球が息絶える。電気が止まっても競馬ストップになるんだから太陽が消滅したら競馬は確実になくなる。潮位競馬予想家の悩みは50億年間で済む。いや、でもその頃になれば「人工太陽」とか出来て、地底か何かで競馬をやっていることも考えられる。

 しかしそうなると、56億7千万年後に再びこの世に現れて、衆生を救うと言われる弥勒菩薩(みろくぼさつ)はどうなるんだ。もうちょっと、早く現れないと、人間、みんな死に絶えている可能性があるぞ。

 ほんと、神戸新聞杯ひとつを取っても色んなことを考えなきゃいけない。大変だ。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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