福島ら短距離勢が欧州武者修行 世界陸上1カ月前の世界との距離

及川彩子

世界選手権まで残り1カ月。福島千里(写真)、藤光謙司、高瀬慧の短距離勢が欧州遠征で見せた姿とは!? 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 8月22日から中国・北京で陸上の世界選手権が開催される。6月末に行われた日本選手権後に代表が発表され、その後すぐに短距離の藤光謙司(ゼンリン)、高瀬慧(富士通)、福島千里(北海道ハイテクAC)らは欧州遠征を行った。彼らがどんな課題を持って試合に臨み、どんなパフォーマンスをしたのか。世界選手権に臨んでいく姿を追った。

自己新の藤光が求める「爆発力」

藤光は100メートル、200メートル共に自己ベストを更新し、好調をアピール。写真は6月の日本選手権のもの 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 日本選手権200メートル優勝の藤光は、7月10日に拠点となるオランダに入り、14日にスイス・ルツェルンで200メートルのレースに出場。

「自分は安定感があるけれど、爆発力がないのが悩み。何か良いきっかけがあるといいのですが」

 2010年に20秒38を出して以来、毎年20秒半ばのタイムを出してはいるが、20秒2、20秒1台には乗せられていない。世界大会もリレーでは出場経験はあるが、個人では09年ベルリン世界選手権以来、出場できていないのはそこにも原因があった。日本選手権でもこれまで「一発を出してくる」選手に対し遅れを取ってきたが、今季はやっと念願の優勝を果たし、「自信がついてきたので、欧州で戦ってみたいと思って」欧州遠征に臨んだ。

 ルツェルンの200メートルでは高瀬と別のBレースの5レーンに登場。ロンドン五輪同種目3位のウォーレン・ウィアー(ジャマイカ)やベルリン世界選手権銀メダリストのアロンソ・エドワード(パナマ)などと同組。藤光は号砲とともに低い姿勢で飛び出し、2位でコーナーを抜ける。躍動感のある走りでバックストレートを走り切り3位でフィニッシュ。記録は20秒13の大幅な自己ベスト更新だった。

「スタートブロックが後ろに飛んでしまって、ずっこけぎみでスタートしたんです。『やばい』と思って必死で走ったのが良かったんですかね。もっとタイムは出たのかも」と藤光は苦笑いしていたが、そんな事件があったからこそ、いろいろなことを考えずに無心で走れたのかもしれない。

 18日にはベルギーのナイトオブアスレチックスで100メートルに出場。「200メートルとは違って最初から出力を上げていかないといけないので、その辺りを意識したい」と話していた藤光は、追い風参考記録ながら10秒14で優勝。しかし「体が浮いてしまって、出し切れている感じはない」と首をひねる。

 3戦目となったスイス・ベッリンツォーナの100メートルでは、自己ベストを0秒04更新する10秒24を記録。ある程度の追い風があれば、10秒1台は確実に見えてきた。3戦通して安定感ある走りはできたが、「爆発力」はまだ得られていない。「ゴールしてもまだ余力があるんですよね」というように、出し切った感覚がないのが現状だ。世界選手権までにこの課題を克服できるかに注目だ。

高瀬、成長を感じるも安定感に課題

高瀬は課題だった安定感をつかむことはできなかったが、トップ選手とレースをともにし経験を積んだ 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 高瀬は、7月5日にイタリアに渡り、7日のイタリア・リグナノを皮切りにスペイン・マドリード、スイス・ルツェルンと3試合に出場した。

 昨年も欧州を転戦したが、希望する試合に出られなかった経験があり、代理人の重要性を実感し6月中旬に米国在住の代理人、レイ・フリン氏と契約。「自分のことをきちんと考えてくれる」というのが代理人選考での重要なポイントとなった。

「ダイヤモンドリーグはもちろん出たいですが、まだ戦えるレベルではないので、その下のチャレンジミート、マドリードに照準を合わせたいと思います」。その意志を伝えると、代理人は早速マドリードの試合を手配。3試合4レース出場が日本選手権中に決定したが、「代理人にお願いすると、こんなに早く試合が決まるんですね」と驚く。

 高瀬は5月10日のゴールデングランプリ川崎で10秒09、翌週に行われた東日本実業団選手権では200メートルで20秒14の日本歴代2位(当時)の記録を出した。しかし日本選手権では「どうしてか分からない」というほど不調で、200メートルは2位、100メートルはかろうじて優勝したものの記録は10秒28にとどまった。

「自分は安定感に欠けるので、それを克服したい。ほかの選手と比べて僕は経験不足なので、海外を走ることで経験値を増やしたい」

 2つの課題を持って高瀬は7日にイタリア・リグナノで行われた100メートルレースに出場。初戦という緊張もあったのか、10秒55と惨敗に終わった。優勝記録は10秒18と、自己ベストに近いタイムを出せば戦えるタイムだった。

 代理人のアシスタントから「環境も異なるし、初戦はみんな、こんなものだよ」と慰められながら迎えた11日のマドリードIAAFチャレンジミート。目標は決勝進出だった。3組目の高瀬は10秒27の3位で、0秒01差でプラス通過を逃す屈辱を味わった。米国のマイク・ロジャーズをはじめ、米国、ジャマイカ勢がいるレースで世界選手権の準決勝というような布陣がそろった決勝を走る機会を逃し、「悔しかったです……」と高瀬は振り返る。

 3試合目のルツェルンでは200メートル1組目、100メートルは2組目に出場。先に行われた100メートルではヨハン・ブレーク(ジャマイカ)などと同組。前半はまあまあの走りだったが、後半にやや失速し10秒27で組4位に、続く200メートルでは前半から動きが硬く、後半は伸びに欠ける走りで20秒67で6位と、良いところなく終わった。

「昨年はホテルに引きこもっていて、外に出る余裕すらなかったんですが、今年はそういう部分は成長できたかなと思う」と話す一方で、レース自体の課題だった「安定感」は得られないまま、帰国の途に就いた。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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