高瀬慧「吹っ切れた」100mで初V=2冠逃すも立て直せた理由

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力の差を見せつけた26歳の新王者

男子100メートルで初優勝を飾った高瀬慧。2位以下を離して、力の差を見せた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 誰よりも速く100メートルで走り抜けた時、初めて“日本一速い男”の称号を手にした高瀬慧(富士通)。しかし、そこには満面の笑みもガッツポーズもなかった。

 桐生祥秀(東洋大)が右太もも裏肉離れの影響で欠場した28日の日本選手権(新潟・デンカビッグスワンスタジアム)男子100メートル決勝。前日に本職の200メートルで2位に沈んだ男は、スタートから一度もトップを譲らず、10秒28のタイムで制した。2位になった“新星”サニブラウン・アブデル・ハキーム(城西大城西高)に0秒12差をつけ、他の選手に力の差を見せつけた新王者は、レース後、こう言って安どの表情を浮かべた。

「注目された中で結果を出すのが今回の課題でした。200メートルではそれができずに終わってしまったけど、100メートルでしっかりできたことは良かったです」

2冠を公言し続けた理由

「今年は期待してもらえるように」と自分にプレッシャーをかけ、シーズンに臨んだ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 そんな高瀬はかつて、「そんなに注目を浴びないで、ポッと勝っちゃう感じでいいかな」と真逆の考えを持っていた。ここ数年の実績は十分だ。12年に200メートルで日本選手権初優勝を飾ると、同年のロンドン五輪、13年世界選手権モスクワ大会に連続出場。14年にはアジア大会の100メートルで銅メダルを獲得している。

 ただ、大学までは大きな実績がなかった上に、現在26歳の遅咲きスプリンター。ゆえに、桐生やロンドン五輪代表の山縣亮太(セイコー)ら躍進する若手の陰に隠れてしまうことも多かった。本人いわく、そもそも「注目されるのもそんなに好きではない方」。しかし、いざ世界の舞台への決意を固めると、次第に「自分も注目されたい」という欲求がわいてきたという。

「自分が期待される中で結果を出すというのが、今僕がやりたいこと。今年は期待してもらえるように、自分の発言、行動を変えていこうと思います」

 今季を迎えるにあたり、高瀬はそんな願望を口にしていた。

 実際、シーズンインすると、その言葉通りになる。3月のテキサスリレー(米国)200メートルで追い風参考ながら20秒09をマークすると、5月のゴールデングランプリ川崎では100メートルで自己最高の10秒09、本職の200メートルでも5月の東日本実業団で、日本歴代2位の20秒14と立て続けに快走。メディアでもたびたび取り上げられるようになり、力のこもった発言も増えた。

「ここでしっかりと自分にプレッシャーをかけておかないと、今後、世界大会や、自分が(100メートルで)10秒台、(200メートルで)20秒台を切るといった(挑戦をする)時に、もっとプレッシャーがかかる」。そう考えた高瀬は、日本選手権では「2冠」を公言、自らをさらに追い込んだ。

200mは2位、右脚の不安ぬぐえず

本職の200メートルでは藤光(右)に敗れ2冠の目標は潰えた。しかし、そこから立て直そうと自身に言い聞かせた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 しかし、優勝候補筆頭に挙げられる中、結果を残すことはそう簡単ではなかった。27日の200メートル決勝では、ライバルの藤光謙司(ゼンリン)に後じんを拝しただけでなく、急成長中の16歳・ハキームに並ばれ、20秒57で同着2位と、悔しい結果に終わった。

 敗因として「前半が(スピードに)乗り切れなかった」ことを挙げた。背景には、20秒14をたたき出した5月のレース中に、右ふくらはぎを痛めていたことがある。その後、2週間休みを取り練習を再開したが、満足な準備はできなかった。右脚に不安が残り、「トップスピードに上げることがすごく怖くて、自分の中でずっと制御していた」状態だった。

 翌日には100メートルの準決勝と決勝が残っている。「がむしゃらに走って、1回吹っ切らないと」。敗戦後の高瀬は、自らを奮い立たせるかのように、何度もそう繰り返した。

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