FC町田ゼルビアユースが6部から全国へ 躍進の背景にあった伝統と革新
激戦の関東予選を勝ち抜く
“6部”のFC町田ゼルビアユースが日本クラブユースサッカー選手権(U−18)大会の関東予選を勝ち抜き、全国大会に出場する 【大島和人】
7月22日から開催される日本クラブユースサッカー選手権(U−18)大会の関東予選2次リーグで、“6部”のFC町田ゼルビアユースが戦ったのは全国1部や2部の猛者たちである。町田は1部(プレミアリーグEAST)の鹿島アントラーズを破り、2部(プリンスリーグ関東)の浦和レッズやヴァンフォーレ甲府とは引き分けた。5試合を3勝2分けで乗り切ってグループ2位となり、関東順位決定戦を待たずに全国大会の出場権を得た。
クラブユース選手権の予選は全国9地域のブロック単位で行われるが、関東予選は特にシビアだ。今年も昨年の同大会チャンピオンである三菱養和SCが関東予選で消えている。
当然、町田はぎりぎりの戦いばかりだった。初戦で浦和に0−0で引き分けると、2戦目は2−1と鹿島を紙一重で上回る。町田ユース監督の竹中穣はこの2試合の星勘定について「コーチから『勝ち点いくつで計算してるんですか?』と言われても、『計算できねぇだろ』みたいに思っていました」と明かす。しかしここで超強敵から“勝ち点4”を奪ったことにより、全国の可能性が見えてきた。
町田は続く3戦目こそ千葉SC(千葉県3部)を5−0と退けたが、残る2試合はかなりの高い壁だった。しかし町田は第4戦、栃木SC(栃木県1部)に2点を奪われるも、ラスト15分に3点を奪う大逆転で勝利をつかむ。
結果にとどまらないインパクトを残す
すると町田はこの2次リーグ最終戦で、甲府に1点をリードされながら88分に同点に追いつき、ミッションを達成してみせる。ドラマ以上にドラマチックな、勝ち上がりだった。甲府の小佐野一輝監督は町田を「一体感があって、覚悟が決まっている。誰が見ても好感の持てるチーム」と絶賛する。町田は2次リーグの5試合で、結果にとどまらないインパクトも残した。
大人のサッカーと同様に、高校生年代は“ピラミッド構造”になっていて、上のカテゴリーを占めるのは選りすぐりのチームだ。関東予選を突破した11チームを見ると、それは一目瞭然。プレミアが4チーム(鹿島、FC東京、大宮アルディージャ、柏レイソル)で、プリンスが4チーム(甲府、東京ヴェルディ、川崎フロンターレ、横浜F・マリノス)、3部に相当する県1部から2チーム(ジェフ千葉、横浜FC)となっている。
町田はトップが2012年にJ2から降格して現在はJ3。ユースも東京都4部(T4)だ。T1とT2には10チームずつ、T3はAとBの2ブロックに分かれて計20チームが参加している。そのさらに下のT4から全国大会に勝ち上がることは、当然ながら異例だ。
昔から環境の整うサッカーどころ
町田市は、多くの有力選手を輩出してきたサッカーどころ。現在ゼルビアの“ひろめ隊隊長”として、普及活動に励んでいるのが酒井良も、町田育ちの元Jリーガーだ。
彼は町田に隣接する相模原市の出身だが、中学進学と同時に戸田和幸(現解説者)らとともに越境した。酒井は「町田は強いだけではなく、うまくて遊びのあるサッカーだった」と振り返る。彼が戸田とともに町田小山FC入りしたのは、まだJリーグの発足していない1990年。町田では当時から将来を見据えて技術を重視した指導が行われ、「地域のクラブチームがリーグ戦をやる」(酒井)という環境もあった。部活動しか選択肢のなかった相模原とは「天と地くらいサッカーの環境が違った」のだという。
FC町田ゼルビアの源流たるFC町田は、市のサッカー協会が運営する“オールスターチーム”だった。リーグ戦から選抜された選手が、週2回の練習で連携を合わせ、試合を行っていた。酒井、戸田たちの世代は第4回全日本ジュニアユース選手権で、日産FC、読売クラブに次ぐ3位の好成績を収めている。しかし主力がジュニアユースからユースに昇格する日産や読売クラブと違い、FC町田は進路が散り散りになった。当時もユースチームはあったが、環境やレベルを考えると現実的な選択肢ではなかったという。