新たな「東京ダービー」に向けて=武蔵野・依田監督、町田・戸塚監督対談

宇都宮徹壱

“新東京ダービー”を前に、武蔵野の依田監督(左)と町田の戸塚監督の対談が実現した 【宇都宮徹壱】

 首都ダービーはフットボールの醍醐味(だいごみ)の一つである。アーセナルとチェルシーのロンドンダービー、レアルとアトレティコのマドリーダービー、ローマとラツィオのローマダービー、はたまたレッドスターとパルチザンのベオグラードダービー……。
 残念ながら、今季のJリーグに「東京ダービー」はない。だが、ちょっとばかり視点を下にずらしてみると、小さいながらも、そこそこ盛り上がりそうな首都ダービーがあることに気付く。JFLの横河武蔵野FCと町田ゼルビア。両者は4月11日、武蔵野陸上競技場で初めて対戦する。

 同じブルーを基調とし、西東京を本拠とする両チームだが、その沿革は実に対照的だ。新JFLが開幕した1999年から11シーズン、ずっとこのカテゴリーで活動を続けてきた武蔵野。対する町田は、将来的なJリーグ入りを目指し、今季からJFLに参戦している。その両チームを率いる指揮官も、これまた正反対のキャリアの持ち主だ。武蔵野の依田博樹監督は中央大学卒業後、横河電機に入社。当時の同好会サッカー部に所属し、関東リーグからJFLに駆け上がるチームの歴史を身をもって体験してきたOB監督である。一方、町田の戸塚哲也監督は、読売クラブ出身で元日本代表。指導者に転じてからは、FC岐阜、FC Mi−OびわこKusatsu(現MIOびわこ草津)、そして町田と渡り歩き、いずれのチームも連続して地域リーグからJFLに昇格させている。

 ロンドンやマドリーやローマ、あるいはベオグラードと比べても、今年の「東京ダービー」は、いかにも地味で小ぢんまりとした印象はぬぐえない。とはいえダービーの魅力は、スタジアムの大きさやプレーの質のみで語られるものではあるまい。それに、これまでの「FC東京対東京ヴェルディ」とは異なり、今回のダービーは「武蔵野対町田」という、よりローカリズムが前景化された対戦となる。いささか極論めいた言い方をするなら、カテゴリーこそ3部リーグながら、日本の首都ダービーは「新たな段階に入った」と見るべきではないだろうか。
 そんなわけで、新たな「東京ダービー」を前に、当事者である両監督に大いに語っていただこうと思う。武蔵野の依田監督、そして町田の戸塚監督。JFLファンにとっては、何とも魅力的な対談が、ここに実現した。(取材日:4月1日 聞き手:宇都宮徹壱)

JFLは「色気を我慢するサッカー」?

JFL元年から参戦している武蔵野を率いる依田監督 【宇都宮徹壱】

――まずは、ここまでの戦いについてお聞かせください。前期第3節を終了して、武蔵野は2勝1分けの2位。上々の滑り出しですね

依田 まあ結果は気にせずに、自分たちがやりたいサッカーをやろうと。いい形で進められているということで、自信になっていますけど、やっぱり次(ジェフリザーブズ戦)が大事ですね。

――対する町田は1勝2敗の11位と、ちょっと出遅れています。やはり点取り屋の勝又(慶典)選手の負傷離脱は誤算でしたね

戸塚 ここまで影響があるとはね。前線で起点が作れず、周りも自信がなくなってしまったんですかね。Jのチームと練習試合をしても、そこそこやれたし、選手も自信があったと思うんだけど。この間のソニー仙台戦(0−2で敗戦)でも、迷いが感じられましたね。あと、酒井(良)と津田(和樹)も今はけがなんですが、彼らが戻ってくれば多少は変わるかなと。

――そして、次のホームでのFC刈谷戦をはさんで、いよいよ11日には武蔵野との東京ダービーがあるわけですが

戸塚 僕たちは「自分たちがやりたいサッカーが、どこまでできるか」ということを言っているのでね。そういう意味では「相手がこう来るから、自分たちはこうしよう」というプレーは、僕もあまり好きではない。だから(武蔵野戦も)「サッカーをやり合う」というのでいいんじゃないですかね。
 JFLの戦い方って、前に大きな選手を置いておいて、そこに縦パスか、こぼれ球を拾っていくという、何となくそういうイメージが強いですよね。逆を取ろうとか、裏を狙おうとか、そういうのではない。「色気を我慢するサッカー」というのかな。それに対して「ちゃんとサッカーをやりながら勝っていきたい」というのが町田の考え方。だから、今は足踏みしていますが、どこかで歯車がかみ合えば、また自信も取り戻せるだろうと思っています。

――「色気を我慢するサッカー」という話が出ましたが、依田監督どうですか?

依田 少なくとも去年までは、うちもそうだったかもしれない。だから今年は、そこを変えてやっているんですけどね。

――武蔵野の場合、守備から入るのは伝統ですか?

依田 僕らは(JFL)元年からいるんですが、その当時はぜんぜん勝てなくて、ひとつ勝てれば大喜びという感じでした。ですから「勝つためにどうすればいいか」というので、守備から入る傾向は10年前からありましたね。でも、今年はそれを破って「より攻撃的に」ということで「突破」というスローガンを掲げています。練習のパターンなんかは一緒かもしれないけど、それでも目指していくものは自分の中では大きく変えているつもりですね。

練習場の確保と移動の厳しさ

――町田は今年からJリーグ準加盟になったわけですが、今のところプロは2人だけなんですね。残りの選手は働いているんですか?

戸塚 働いていますね。ですから、うちは午前中の練習は週に2回だけ。火曜日は夜やって、水曜日は午前、木曜日は夜、金曜日は朝なんです。で、その間に仕事しているでしょう。だから厳しいですよ、コンディション作りが。武蔵野さんみたいな、いいグラウンドがあれば別ですが。こっちは照明付きのグラウンドがひとつしかなくて、それも八王子市に近い相原というところでやっているんです。ほかのチームの事情は分からないですけど、皆さん練習場には苦労していると思いますよ。

――武蔵野の場合、人工芝ですがきちんと照明塔の付いた横河電機の練習場を固定して使えますよね。それでも、やはり練習での悩みはあるんでしょうか?

依田 横河電機にはラグビー部(横河武蔵野アトラスターズ)があるので、時々併用があるんですよ。今はオフシーズンなんですが、ラグビーが始まると全面使えないです。あと、子供たちのサッカーもありますから、使える時間はけっこう短いですね。

――そうした厳しい練習環境の中で、それでも選手のモチベーションを落とさないために、心掛けていることってあります?

戸塚 コミュニケーションですよね。ただ、僕はほったらかしというか、メニューはボンと出しますけど、やるのは選手ですから。「今日は走れない」というやつは、やらなくてもいい。そのかわり試合に出られないだけだから。まあ、大人なんだし、うちはプロを目指しているわけだから、ね。

依田 選手全員のコンディションを整えていきたいので、出場機会のない選手のためにもトレーニングマッチをできるだけ組んでチャンスを与えていっています。そんな中でも、できるだけコミュニケーションは取りたいとは思っています。

――町田の場合、去年までは関東リーグだったわけですが、いきなり全国リーグという大変さもあるんじゃないですか?

戸塚 やっぱり遠征がね。今回も仙台や京都(佐川印刷SC戦)に行きましたけど、バスで片道6時間以上かかりました。

――バスで6時間ですか!

戸塚 さすがにTDK(秋田)は違うと思いますけど(笑)、仙台は普通にバスですね。最初、僕は「3時間以内ならバスでいい」と言ったんですけど、結局、予算の関係でバスで行くようになったんです。西は京都までで、北は仙台まで。まあ関東はいいとして、せいぜい(西は)静岡までかなあ。6時間のバスというのは、選手のコンディションも悪くなりますよ。どんなに気持ちはあってもね。

依田 逆に僕らは、お金のことを考えたら本当はバスで行きたいんです。仙台とか京都とかも「どうしようか」となったんです。でも仙台が土曜日で、京都は祝日ですが前日が平日なので、みんな昼間働いているから夜の移動になってしまう。結局、「やっぱり新幹線でお願いします」となりますよね。まあ費用もかかりますが、そこは仕方ないです。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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