アギーレ体制に注入された“新たな血” さらなる原石の発掘へサバイバルは続く

清水英斗

勝てるサッカーなら何でも良い

「スタイルは重視しない」と語るアギーレ監督(右から2人目)が選択したのは4−3−3。バランスを保ちやすいシステムの採用は順当なものだった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

「どういうスタイルを求めるかといえば、上位に行けるスタイルだ。素晴らしいスタイルだと言われても、(FIFA)ランキング44位(2014年8月に発表された日本の順位)だったら、あまり良いと言われないスタイルでも20位以内に行きたい。だからスタイルはあまり重視していない」

 現実的、実利主義と言われるハビエル・アギーレらしいコメントだ。思い返せば我々は、ブラジルワールドカップ(W杯)を通して「自分たちのサッカーとは何か?」というロマン溢れる議論に明け暮れた。しかし、バスク系メキシコ人の指揮官は、そのような話にあまり興味を示さないようだ。極論すれば、勝てるサッカーなら何でも良い。

 その彼が「ベースのシステム」として活用する4−3−3は、ピッチ上にバランス良く選手を配置できる特徴がある。縦の深さと、横幅を同時に作りやすいため、ポゼッションサッカーの代名詞とも言えるバルセロナや、ジョゼップ・グアルディオラのチームもこのシステムを多く採用している。

 また、4−3−3はピッチ上にバランス良く選手が散っているため、守備面においても、あらゆる相手のポジションに対してプレッシャーをかけやすい。たとえば今回、日本と対戦したベネズエラ代表は4−4−2でディフェンスを行っていたが、このシステムの場合、FW2枚とボランチ2枚の間にスペースがあり、たとえば前半に柴崎岳がこのスペースでよくボールを受けたように、ここでプレーする選手をフリーにしやすい。また、前線は2トップで4バックを追いかけるため、相手のサイドバック(SB)まで追い切れず、ここもフリーになりやすい。それに対応するには、スタートポジションを破棄してハイプレッシングを行うか、あるいは相手が縦パスを打ち込んで来るまで待ち構えるか。つまり、攻める守備と引き下がる守備の2択になる。

4−3−3は、とりあえずのシステム

 その点、ピッチ上にバランス良く配置される4−3−3の場合、相手の両SBは両ウイングがマーク、相手ボランチはインサイドハーフがマーク、といった具合に担当を割り振りやすい。スタートポジションをそれほど崩さず守備を行うことができる。ただ、裏を返せばハッキリと担当が決まり過ぎて、各所の個の力に頼りがちにもなるのだが。

 バランスが良いから、4−3−3は優れたシステムというわけではない。たとえばアルベルト・ザッケローニの3−4−3にはサイドで数的優位を作りやすいという“偏り”があったように、バランスの偏り自体がシステムの特徴と言えるので、この辺りはどんなシステムも一長一短だ。

「スタイルは重視しない」と語るアギーレが、バランスを保ちやすい4−3−3システムを最初のベースに選択したことは大きくうなずける。ゼロベースで、フラットに未来を見つめる代表の出発点としては順当なものだろう。

「こういった試合では、どのシステムが日本にとって最適なのかを見ていきたい。同時に選手たちも見ている。1戦目と2戦目を比較するなら、2戦目で良くなった」

 4−3−3は、とりあえずのシステムだ。アギーレは形にこだわらない。今の彼はツルハシで金脈を掘り起こしている段階であり、原石を集め、それから研磨し、最終的にデザインとして仕上げるのはまだ先のフェーズである。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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