アギーレ体制に注入された“新たな血” さらなる原石の発掘へサバイバルは続く

清水英斗

新たな形が見えたベネズエラ戦の2得点

今回はアンカーを務めた森重(青)だが、長谷部が復帰すれば、CBに戻る可能性もある 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 とはいえ、今回の2試合では、早くもその片鱗が見えた。

「日本人選手の特徴を聞かれれば、スピードがあること。そのスピードをどう生かすかを考えないといけない。W杯や欧州でのプレーは見ていたし、彼らは期待通りだった。この期間を通して何が良かったかと言えば、新しい血が注入されたこと。将来があるということだ」

 アギーレは早くも原石を発見したようだ。岡崎慎司がスペースを作り、武藤嘉紀や柴崎が勢いよく飛び込んだ鋭いカウンターによるベネズエラ戦の2得点は、ザックジャパンではあまり見られない形だった。これは大きな収穫と言える。

 ベネズエラ戦では前半からウオーミングアップを命じられながら、出場機会が訪れなかったが、センターFW(CF)の皆川佑介も面白い選手だ。アギーレを見ていると、「走らない選手は使わない」という語り口、さらにシステムや形にこだわらないといった点から、イビチャ・オシムに似た雰囲気を感じることがあるが、皆川は、そのオシムに重用された巻誠一郎を彷彿とさせる。体の強さ、泥臭さ、顔もちょっと似ている。人見知りせず、日本人離れしたコミュニケーション力もあるようで、“新しい血”としては、こちらも気になる選手だ。

 逆に、同じCFとして大迫勇也はあまり良い印象を残さなかった。ポストプレーでは非凡な技術を発揮したが、たとえばサイドに頻繁に流れて味方のためのスペースを作り続けた岡崎に比べると、アギーレが語る「日本人のスピードを生かす」という点において物足りなさが残る。武藤や柴崎が目立てば目立つほど、大迫よりも岡崎の必要性が高まる。アギーレは典型的なCFタイプを好む指揮官、と聞いていたが、どうもこの辺りも、そのチームで率いる選手の長所によって異なる考え方をするようだ。

ミスの目立ったDF陣は再編か?

 序列がゆらゆらと揺らめくポジションは他にもある。右SBは1戦目で酒井宏樹が失点につながるミスを犯し、2戦目では酒井高徳が「ミスばかりで全然ダメだった」と肩を落とした。前者はサッカーのセオリーから外れたプレーがしばしば見られ、後者は試合ごとにパフォーマンスの波が大きすぎる。

 センターバック(CB)では吉田麻也とコンビを組んだ坂井達弥、水本裕貴はどちらも失点に絡んだ。今回は森重真人がアンカーに入り、悪くないパフォーマンスだったが、練習を見ているとアンカーのポジションにはいつも一人分の空席がある。すなわち、負傷離脱した長谷部誠の分だ。長谷部は昨シーズン、ニュルンベルク在籍時にアンカーを務めた経験がある。坂井、水本が外れて長谷部が復帰すれば、森重がCBに戻る可能性もある。

 あるいは新たな左利きのCBが招集されるのか。今回、実績のない坂井を抜てきしたのだから、そのこだわりは強いと見ていい。何にせよ、次のメンバー発表も初回と同じく緊張感を伴って迎えられるだろう。すでに「競争」のイメージは色濃く現れている。アギーレが語った次のコメントには、背筋に冷たいものを感じた。

「次のリストを見たとき、誰が良くて誰が良くなかったか分かると思う」

 サバイバルはすでに始まっていた。アギーレがどのような判断を下すのかは分からない。ただ一つ言えるのは、この言葉から何も感じるものがない選手は、次のリストに残らないということだろう。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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