招集のポイントは左利き、長身、若さ? アギーレの招集リストから見えてくるもの

宇都宮徹壱

所信表明は「全員が日本代表だ」

初のメンバー発表会見に臨んだアギーレ監督。招集リストから見えてくるもの とは? 【宇都宮徹壱】

 いつもの「日本代表メンバー発表」とは、明らかに空気が違っていた。

 会場は、いつもと同じJFAハウス4階の会議室。通常なら一室で十分に収まるのだが、さすがにハビエル・アギーレによる最初のメンバー発表会見となると状況は一変。用意されていた席はすぐに足りなくなり、立ち見する記者であふれ返った。注目度の高い会見の場合、サッカーミュージアムのバーチャルスタジアムが使用されるのだが、さすがに夏休みの子どもたちを締め出すわけにはいかなかったのだろう。かくしてこの日(8月28日)の会見は、いつも以上に熱気が充満する中で行われることとなった。

「ここから新しいスタートになる。(中略)初戦から『戦う、競争力のあるチーム』を見せたい。そして常に勝利を目指して戦うチームを見せたいと思う」

 アギーレの第一声を聞いて、あらためてこの場に居合わせることの重要性をかみしめる。今月11日に都内のホテルで行われた就任会見が「おひろめ」であったとするならば、就任最初のメンバー発表は真の意味での「所信表明」である。そしてそれは、会見直前に配布された23人のメンバーリストからひしひしと伝わってきた。

 今回の23人のうち、先のワールドカップ(W杯)に出場したメンバーは、およそ半分の12人。直前の試合で負傷した香川真司は仕方ないとして、アルベルト・ザッケローニ監督時代の常連だった遠藤保仁や今野泰幸の名前が消えていたのは、やはり時代の変化を感じずにはいられない。欧州組も12人。W杯後にスイスのバーゼルに移籍した柿谷曜一朗、ブラジル行きが叶わなかった細貝萌(ヘルタ・ベルリン)、スポルティング・リスボンに移籍して2年ぶりの代表復帰を果たした田中順也など多士済々がそろう中、国内からも11人が選ばれたことが目をひく。そのうち、初選出は5人。選出のポイントについて問われた指揮官は、こう明言した。

「若手なのかベテランなのか、初招集なのかすでに代表でプレーしたことがあるのか、国内組なのか海外組なのかは区別しない。全員が日本代表だ」

初招集の5人から「代表選手の条件」を考える

 目新しい名前が並んだメンバーリストは、新監督の意欲の表れであり、その方向性というものもおぼろげながら見えてくるものである。今回、初招集されたのは、DFの坂井達弥(鳥栖)と松原健(新潟)、MFの森岡亮太(神戸)、そしてFWの皆川佑介(広島)と武藤嘉紀(FC東京)の5人。発表前にはさまざまな予想を目にしてきたが、さすがにこの5人全員を言い当てたメディアは皆無であった。当のアギーレも、彼らの選手の意図についてコメントすることをやんわり拒否している。ならば状況証拠から、指揮官が考える「代表選手の条件」を考察してゆくしかない。

 5人の中で、少なからずのファンが納得できたのは武藤と森岡であろう。武藤は、今季1年目の現役大学生ながら、アギーレが視察した23日の対浦和戦で2ゴールを決めて鮮烈な印象を残した。ここまでチーム最多の7ゴールを挙げており、代表での活躍が期待されている選手のひとりだ。森岡は今季5シーズン目の23歳で、トップ下に君臨する10番。旺盛な運動量と両足でのボールコントロールがアギーレの目にとまったものと思われる。

 この2人に加えて、唯一のリオデジャネイロ五輪世代(現在21歳以下)の松原は、おそらくは手倉森誠コーチ(U−21代表監督兼任)の推挙によるものだろう。「1チーム原則1人の招集」という制約があったため、松原は9月のアジア大会のメンバーに漏れていた(新潟から招集されたのはFWの鈴木武蔵)。そこへ予想もしなかったA代表の招集である。当人もさぞかし驚いていることだろう。

 その一方で分かりにくいのが、坂井と皆川の選出理由である。前者はプロ2年目(特別指定選手時代を含めると3年目)の23歳、後者は大卒ルーキーの22歳。ただし今季のリーグ戦に関して言えば、坂井は4試合、皆川は7試合しか出場していない(いずれも第21節終了時)。つまり、坂井も皆川も所属クラブでレギュラーポジションを確保しておらず、今回の選出にはサポーターの間からも驚きの声が挙がったくらいだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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