慶應高校野球部―「まかせる力」が人を育てる―

慶應高野球部の3年に訪れる「30人切り」 敗れた選手は1対1の面談を経て最後の夏へ

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【写真は共同】

「高校野球の常識を覆す!」を合言葉に、慶應高校野球部は107年ぶりに全国制覇を成し遂げた。彼らの「常識を覆す」チーム作りとは、どんなものなのか? なぜ選手たちは「自ら考えて動く」ことができるのか? 選手、OB、ライバル校の監督等、関係者に徹底取材。見えてきたのは、1世紀前に遡る「エンジョイ・ベースボール」の系譜と、歴代チームの蹉跌、そして、森林貴彦監督の「まかせて伸ばす」指導法だった。

 歓喜に湧いた全国制覇から1年、慶應高の歴史に迫った書籍『慶應高校野球部:「まかせる力」が人を育てる』(加藤弘士著)から一部を抜粋して掲載します。

「部員100人」の功罪

 107年ぶりの全国制覇を成し遂げた時、慶應高校野球部の部員数は奇(く)しくも107人だった。強豪私立の中には少数精鋭で部員数を絞るチームもあるが、慶應高校野球部は上手い下手にかかわらず、基本的に希望者は入部できる。だが覚悟を問うため、「新人トレ」で“振り落とし”が行われるのは前述した通りだ。

 内部進学組が約4割、一般入試組が約3割、推薦入試組が2~3割といった比率である。ベンチ入りメンバーは中学時代、全国大会に出場するなど優秀な成績を収めた推薦組が多数を占める。入学時、推薦組のパフォーマンスは突出しており、内部組や一般組はその迫力に圧倒される。だが内部組、一般組も努力と結果次第では、ベンチ入り、レギュラー奪取は不可能ではない。

 通常、私立強豪校においてチーム内での序列はある程度、「野球の上手さ」が大きな要素になる。背番号一桁が幅を利かせている例をよく見る。だが、慶應高校はそうとは限らない。個性を尊重する慶應のカルチャーでのびのびと育ってきた内部組や、創意工夫と努力、忍耐を重ね、首都圏屈指の難関校に見事合格した一般組にも、たしかなプライドがある。

 後述するが、2003年の推薦入試導入以降、歴代のキャプテンはこの三つをいかに一つにまとめるかに腐心してきた。それは容易なことではない。しかし、一体化したときには強烈な化学反応を起こす。2023年夏の慶應高校野球部が、まさにそうだった。
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著者プロフィール

1974年4月7日、茨城県水戸市生まれ。水戸一高、慶應義塾大学法学部法律学科を卒業後、1997年に報知新聞社入社。2003年からアマチュア野球担当としてシダックス監督時代の野村克也氏を取材。2009年にはプロ野球楽天担当として再度、野村氏を取材。その後、アマチュア野球キャップ、巨人、西武などの担当記者、野球デスクを経て、2022年3月現在はスポーツ報知デジタル編集デスク。スポーツ報知公式YouTube「報知プロ野球チャンネル」のメインMCも務める。

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