招集のポイントは左利き、長身、若さ? アギーレの招集リストから見えてくるもの

宇都宮徹壱

アギーレは左利きと長身を重視している?

招集リストを見ると、左利きと長身の選手が多く含まれる。アギーレの重視するポイントなのだろうか 【宇都宮徹壱】

 ヒントがあるとすれば、坂井が左利きのセンターバック(CB)であること、そして皆川が186センチの長身FWであることであろうか。実際、今回の招集メンバーを見てみると、左利き(田中、扇原貴宏、本田圭佑、西川周作)の選手は意外と多いし、初選出の5人は武藤(178センチ)を除いた4人は皆180センチ台だ。つまりキーワードは「左利き」と「長身」、そしてもうひとつ「若さ」を加えるべきなのかもしれない(5人とも90年代の生まれ。逆に30代は川島永嗣と長谷部誠だけになってしまった)。

「左利き」に関して言えば、代表クラスのCBのレフティーは、まったくと言って良いくらい人材が見当たらないのが実情だ(専門誌でピックアップされていた選手たちの利き足を確認したが、いずれも右利きだった)。ゆえに坂井の意外な選出については、当人の経験不足を補って余りあるものを、アギーレが彼の左足に見いだした可能性は十分にあり得る。CBのひとりがレフティーであれば、左サイドの選手との連携はよりスムースになり、フィードの精度も高まるかもしれない。付言するなら、ボランチの扇原はレフティーならではのビルドアップのリズムを与えてくれるだろうし、田中にはメキシコ代表ジョバンニ・ドス・サントスのように右サイドから中央に切れ込む動きを求めてくるかもしれない。

 では「長身」についてはどうだろうか。確かにアギーレは、メキシコ代表のハレド・ボルヘッティのように、ワントップに高さのある選手を起用することはあった。しかし、豊田陽平(鳥栖/185センチ)や指宿洋史(新潟/197センチ)やハーフナー・マイク(コルドバ/194センチ)のような代表か海外で経験のある長身選手ではなく、なぜ皆川が選ばれたかについては、納得できるような答えを見いだすのは(少なくとも現時点では)難しい。もう少し観察を重ねる必要がありそうだ。

アギーレの招集で蘇る20年前の記憶

 ところで今回の招集メンバーリストを見て、歴代日本代表監督の誰に近いかと記憶をたどっていくと、今から20年前の1994年に就任し、わずか1年(9試合!)で退任したブラジル人監督のパウロ・ロベルト・ファルカンに思い当たった。前任のハンス・オフト、後任の加茂周の影に隠れがちではあるものの、ファルカンの日本代表はかなり異色な存在として、今も私の脳裏に刻まれている。

 いわゆる「ドーハの悲劇」の主力メンバーをごっそり排し(のちに何人かは復帰)、小倉隆史、前園真聖らの若手、佐藤慶明、名塚善寛、岩本輝雄といった「知る人ぞ知る」選手たちを積極的に招集したことで、当時はファンの間でさまざまな議論を呼んだものだ。個人的な体験を記すなら、当時『ダイヤモンドサッカー』(テレビ東京)でアシスタントディレクターをしていた私は、レギュラー出演者の金子勝彦さんと大仁邦彌さん(現JFA会長)が、ファルカンの意図について熱っぽく意見交換していたことを昨日のことのように思い出す。ファルカンの人選には、今でも謎な部分は少なくないが、それでも当時の代表が一気に若返り、チョイスの幅が広がったことについては評価されてよいようにも思う。

 話をアギーレに戻す。今回の会見はいろいろとサプライズにあふれていたが、少なくとも年内は一過性のものに終わらないような気がする。というのも、彼はこのように語っているからだ。

「これ(今回のウルグアイ戦とベネズエラ戦)は選手たちがパスしないといけないテストでもある。アジアカップの前に6試合ある。それをパスした選手がアジアカップに進む」

 就任以来、積極的にJリーグの視察を続けているアギーレだが、彼が欲している「質の高い」選手は、まだまだ埋もれている可能性が高い。そして、何かしら光るものがあれば、それこそ「若手なのかベテランなのか、初招集なのかすでに代表でプレーしたことがあるのか、国内組なのか海外組なのかは区別しない」でピックアップする可能性は十分にあると言えよう。そうして考えると、アギーレが日本代表をどのような方向に導こうとしているかについては、年内6試合の招集メンバーと試合内容から推察していく必要がありそうだ。そして展開が読めない分、いろいろと楽しませてくれそうな気がする。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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