隙なきドイツと手数のアルゼンチン データでひも解く決勝プレビュー

清水英斗

1カ月続いたW杯もいよいよ決勝戦。ドイツとアルゼンチンが、世界一を懸けて激突する 【写真:ロイター/アフロ】

 1カ月に渡る祝祭も、いよいよフィナーレの時を迎えた。ブラジルワールドカップ(W杯)の決勝に名乗りを挙げたのは、ドイツとアルゼンチン。欧州と南米、それぞれの強豪国が激しく火花を散らすことになる。

 ここまで勝ち上がってきた両チームには、どのような特徴があるのか? 本稿は『FIFA.com』のデータを元に、両チームの特徴をあぶり出し、決勝のプレビューをお送りする。

アルゼンチンは「ジャブ」を打ち続けるタイプ

アルゼンチンはシュート数が95回と多く、手数で勝負するタイプと言える 【写真:FAR EAST PRESS/アフロ】

 準決勝まで6試合のゴール数については、ドイツが17得点で32カ国中トップ。アルゼンチンは8得点で6位に留まる。さらに注目すべきは、両チームのチャンスの内容だ。
 まず、攻撃回数を比較すると、アルゼンチンはドイツをしのぐ311回を記録し、32カ国中トップ(※準決勝までの6試合の記録)の数字を誇る。いわば“手数”の多いチームだ。そこからシュートに至った回数は95回で、枠内シュートは61本。そのシュートエリアを見ると、ペナルティーエリア内から打った枠内シュートが34本、エリア外が27本と、ミドルシュートの割合が多いことが分かる。

 このアルゼンチンの手数の多さは、「シュートで終わっておく」というリスクマネジメントの側面もあるだろう。それは攻撃ゾーンの傾向からも読み取れる。311回の攻撃におけるゾーン別内訳を見ると、右サイドから攻めた回数は143回、中央は56回、左サイドは112回とサイドが多い。もちろん中央を崩すのはそもそも容易ではないし、また、カウンターを食らうリスクを避ける意味でも、攻撃の中心がサイドになるのは、どのチームでも当たり前のことだ。しかし、アルゼンチンはその比率が大きい。また、クロスを上げた本数は160本と32カ国中トップクラスの水準だ。攻撃がゴールに結びつく効率は悪いが、アルゼンチンの場合はミドルシュートで終わる、クロスで終わるといった、攻撃をフィニッシュさせる意識が強い。これは相手のカウンターに対するリスクマネジメントになる。

 この戦い方をボクシングに例えるなら、ひたすらジャブを打ち続けるスタイル。その攻撃は決定打にはなりづらいが、ジャブが相手への牽制(けんせい)となって試合を優勢にコントロールする。データから読み取るアルゼンチンにはそのような特徴がある。

ドイツは「アウトボクサー」スタイルで攻撃

 一方、ドイツを見ると、攻撃回数は250回と控えめ。ところがシュートに至った回数を見ると88回でそれほどアルゼンチンと差がない。また、枠内シュート数では64本とアルゼンチンを逆転。さらにシュートエリアでは、ペナルティーエリア内が43本、エリア外は21本と、アルゼンチンに比べると、よりゴールに近い位置でのビッグチャンスを多く生み出していることが分かる。ドイツの攻撃は手数こそ少ないが、効率良く、一つ一つのチャンスの質を高める志向があるようだ。

 それを裏付けるのが、ゾーン別の攻撃の内訳だ。ドイツは右サイドから攻めた回数が106回、中央が57回、左サイドが87回、そしてクロスの本数が121本と、アルゼンチンに比べると中央の攻撃率が高いことが分かる。しかも、クロスについても約40本も少ないにもかかわらず、その成功本数はドイツが32本、アルゼンチンが29本と上回る。中央、サイド攻撃、どちらにおいても、ドイツはより質の高いチャンスを作っている。ドイツを同じくボクシングで例えるなら、相手の動きをよく見て、ジャブとともに効率の良いストレートパンチを適所に放っていく、アウトボクサースタイルと言えるだろう。

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著者プロフィール

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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