「日本らしいサッカー」は1つではない ザックジャパンの4年間 第1回・戦術編

清水英斗

W杯本大会を1分2敗で終えた日本代表。ザッケローニ監督の4年間を振り返ってみる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 6月12日(現地時間。以下同)に始まったワールドカップ(W杯)ブラジル大会。7月5日の準々決勝を終えて4強が出そろい、いよいよ大会は佳境を迎えつつある。

 一方、日本代表はグループリーグ3試合を1分2敗で終え、早々に大会を去った。すでに監督、選手たちは帰国し、次のステップへと歩み始めている。また、退任を発表したアルベルト・ザッケローニ監督の後任についてもさまざまな報道がなされ、早くも『新生・日本代表』について語られることになりそうだ。

 今回スポーツナビでは、ザッケローニ監督と歩んできた日本代表の4年間を振り返り、日本サッカーの成長と発展、そしてザッケローニ監督が日本にもたらしたものは何だったのかを論じる。また、W杯での敗退から学ぶべきことを、4つの視点からそれぞれ振り返り、今後の日本代表が世界のトップと戦うために必要な要素を探っていきたい。

 第1回は日本代表の「戦術」について。監督や選手たちの口から発せられていた『日本のサッカー』『自分たちのサッカー』がキーフレーズとなった戦術だが、この4年間でザッケローニが日本代表に植えつけてきた戦術観について考察する。

ザッケローニが積み上げたものをご破算にするのはもったいない

 この4年間、ザックジャパンが目指した『自分たちのサッカー』とは何だったのか?

 今大会は結果が伴わず、ゲーム内容にも不満があったため、ファンの間にはさまざまな疑問や混乱が生じているようだ。今後、新しい日本代表監督が決まれば、メンバー選考、システム、約束事など、さまざまな変化が起こるのは間違いないだろう。その新しい時代を、このもやもやとした状況のままで迎えてもいいものか。

 たった3試合の出来事で、この4年間に積み上げたものすべてをご破算にするのはもったいない。ザッケローニ監督は、日本のサッカーに何をもたらし、何を指摘し、何を変えたのか? 本稿の目的は、ザックジャパンがこの4年間で積み上げた成果を、戦術面から整理することだ。

ザックが指摘した日本に欠ける「インテンシティー」

南アフリカW杯後、ザッケローニ監督が最初にてこ入れしたのが「インテンシティー」。組織的にインテンシティーを高める戦術を取り入れた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 2010年に就任したばかりのザッケローニ監督が最初に着手したのが、ディフェンスの再構築だった。岡田武史監督が率いた日本代表は、W杯南アフリカ大会で低い位置でボールを奪う戦い方を取っていたが、ザックジャパンでは最終ラインを高く保ち、高い位置からボールを奪うためのプレッシングを整備した。

 その過程において、ザッケローニ監督は、日本のサッカーに重大な問題点を指摘している。それは日本代表に限らず、日本のサッカーでは、ボールホルダーに対するプレッシャーが弱いということだ。W杯の試合を見ているとよく分かるが、世界のチームは「ボールを奪う」と決断したときの球際に対する寄せが、非常に速く、鋭く、激しい。それに比べると、日本のプレッシャーはどこか忍び足で、ボールホルダーを自由にさせ過ぎている。
 ザッケローニ監督はこのような状況が起きる背景として、「守備者が自分の裏を気にし過ぎている」と指摘した。そこで“前に”集中してプレッシャーをかけるための約束事として、守備者を2人ずつセットにし、後ろは味方のカバーに任せ、決断力を持ってプレスをかける考え方を与えた。いわゆるチャレンジ&カバーだ。この2人目のカバーの機能性を高めるためには、お互いの距離がコンパクトであるほうがいい。ザックジャパンは前線の1トップとトップ下の2人が相手のパスをサイドへ誘導し、そこへ全体がスライドしてコンパクトに保ち、組織的にインテンシティー(プレー強度)の高いプレッシャーをかける戦術を実践した。

 今大会は1試合平均で8.2回のオフサイドを取ったコスタリカに注目が集まっているが、そのベースとして彼らはボールに対して強いプレッシャーをかけ、窮屈なパスを出させているから、思い切ってラインを上げる、あるいは下がらずに止めることができている。

 翻って日本では「一発で行くな」とプレス強度を制限するような指導が多いと感じるが、世界のチームを見ると、一発だけでなく、二発、三発としつこくボールに食らいつき、それで入れ替わられそうになれば体を当ててファウルでも止める。それができない日本の選手は、抜かれそうになったときに手で相手のユニホームを引っ張ることも少なくない。この球際の差は、サッカーの習慣から来るものが大きいのではないか。

 ザックは日本のサッカーに欠けているインテンシティーについて、重要な指摘をしてくれていた。

“アグレッシブな”ディフェンスが必要だった

 ザックジャパンのディフェンスにおけるもう1つの重要な方針は、中盤を突破しようとする相手の前進を、できるだけ早い段階で阻止することだった。

 一般的に日本のサッカーでは、中盤辺りから仕掛けてくる相手の攻撃を、コーナーフラッグ際などのサイドへ追い込み、失点のリスクを減らす方針が多い。しかしその場合、相手にそのままサイドを進まれ、自陣の深い位置へボールを運ばれるという欠点がある。そうなるとボールを奪った後の攻撃の距離が長くなってしまい、また、レベルの高い相手には自陣深くに押し込まれ、二次攻撃、三次攻撃を受け続けてしまう。

 そこでザックジャパンはサイドに追い込むよりも、まずは縦を防いで前進を食い止めることを優先する方針を立てた。その結果、裏を突かれたりするリスクは増えるが、逆サイドバック、逆サイドハーフが中央へ絞ってカバーリング意識を強め、ここでも組織としてのディフェンスを目指した。とはいえ、もちろん強力なサイドアタッカーとマッチアップするときの内田篤人や長友佑都には中央に絞る余裕がなかったり、相手が1トップなら中央をある程度センターバック2人に任せたりするなど、細かい部分は試合によって変わるが、大きなディフェンス方針としては、「ズルズル引き下がらないために何をするか?」ということだった。

 世界の舞台では攻撃のレベルが高くなるので、相手も簡単にはミスをしてくれない。ミス待ちのディフェンスではなく、積極的に追い詰める“アグレッシブな”ディフェンス。ザックジャパンが『自分たちのサッカー』をできている試合では、このような高い位置でのプレッシングがハマっていたが、それに失敗し、ズルズルと下がってゴール前を守るような場面になると、ザックジャパンは人数が足りている場面でも多くの失点を喫してきた。

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著者プロフィール

清水英斗

1979年12月1日生まれ、岐阜県下呂市出身。プレーヤー目線で試合の深みを切り取るサッカーライター。著書は「欧州サッカー 名将の戦術事典」「サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術」「サッカー観戦力 プロでも見落とすワンランク上の視点」など。現在も週に1回はボールを蹴っており、海外取材では現地の人たちとサッカーを通じて触れ合うのが楽しみとなっている。

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