「涌井はもっと評価されて良い」吉井理人が思うダルビッシュと涌井の現状
スランプの脱出「新しい自分の感覚を見つけるのも一つ」
感覚とか記憶は曖昧だと話す吉井氏。スランプ脱出の一つの方法として、「今の自分が一番気持ちの良い投げ方を見つける」ことを挙げる 【写真は共同】
その原因にもよると思います。僕の場合は故障だった。だから健康になって痛みさえなくなれば「やれる」という自信がありました。涌井投手もけがをしてから調子を崩したと思います。
――そうですね。涌井投手は11年5月に右ひじに遊離軟骨が見つかり、そこからフォームを崩したと言われています。
けがが発端だとしたら、まずはその不安をなくすことが大事。もし、どうしても不安がなくならないのならば、その状態でも投げられる方法を見つけ出すこと。そして故障していない箇所を鍛えて故障部分をカバーすること。そういうものを探していくことが復活するためのコツだと思います。普通にやっていてもスランプからはなかなか脱出できないと思います。
――よく「元に戻そう」とするのではなく、「新しい自分をつくろう」とする方が良いとも聞きますが。
ピッチャーは感覚です。自分の感覚では元の状態に戻したと思っていても、実は少しズレているかもしれない。感覚とか記憶というのは曖昧ですからね。そこが難しい部分だと思います。それよりも今の自分が一番気持ちの良い投げ方を見つける方が早いかもしれない。もちろん元に戻すというのも一つの手だと思いますが、新しい自分の感覚を見つけるのもまた方法だと思います。
僕もおじさんになってから気付いたんですよね。「あっ、もう昔には戻れへんわ」って(笑)。若いうちは良い時のイメージが強く残っているし、体が変化していることもなかなか気付かないですからね。
――肉体的な成長が止まる時というのは確実に訪れると思いますが。
僕は野球に対しての体の成長というのは止まるとは思わないです。やり方次第でいつまででも伸びると思っています。そういう意味ではコンディショニングが非常に重要。ダルビッシュ投手はその部分にすごくシビアだった。普段の生活から常に野球のことを考えてやっていました。やはりそういう部分がプロとして長く活躍するためには大事ですね。
――吉井さん自身も年齢を重ねていく中で調整方法なども変えたのでしょうか?
僕の場合は故障してからですね。近鉄でクローザーを3年やったんですが、4年目に肘が駄目になった。そこから2年くらいは、球速が110キロ程度しか出ませんでした。その時にたまたま立花龍司トレーニングコーチがやってきて、コンディションの大切さというものを教えてもらいました。それまではコンディションは関係ない、馬力だけでやれると思っていたんですけど、実際にけがをしてからはその大切さを思い知りましたね。それからですね、自分がプロの選手になれたなと思うのは。それまでは才能と若さ、勢いだけでやっていました。ダルビッシュ投手も涌井投手も今年でまだ28歳。やり方が間違っていなければ、これからもっともっと良くなりますよ。
吉井氏が移籍で復活できた理由
吉井氏は現役時代、マダックスをライバルとして意識していたという。ダルビッシュと涌井、2人のエースの今後が期待される 【写真は共同】
いやぁ、いないですよ(笑)。まぁ、自分で勝手に(グレッグ)マダックスがライバルだと思ってやっていましたけどね(笑)。そういう意味では、やっぱりライバルの存在は必要だと思いますね。自分の中での目標でも良いと思います。僕自身も若い頃は何も考えずにやっていましたけど、先発に転向したり移籍したりする中で、新しい目標だったり新しい欲みたいなものが出て来ましたからね。
――その意味でも移籍することのメリットもあると思いますが。
そうですね。生え抜きとして1つのチームで選手生活を終えることはもちろん素晴らしいことだと思いますけど、自分をレベルアップさせていくためには、環境を変えることは有効な手段だと思います。良いキッカケになると思います。ダルビッシュ投手もメジャーに移籍してまたさらにすごくなった。あのまま日本ハムにいたら今のダルビッシュ投手にはなれていないでしょう。だから涌井投手も、今オフの移籍が大きな転機になる。しかもFAですからね。戦力として求められて行くわけですからね。環境が変われば必ずそれが刺激になる。大きなチャンスだと思います。
――吉井さん自身も現役時代に何度も感じたと思いますが、移籍初年度の難しさというものはありますか?
いや、難しくはない、チャンスなんですよ。僕も最初、近鉄一筋でやっていくと思っていたんで、ヤクルトにトレードになった時はショックでした。でも、トレードされた直後、東京のホテルのロビーで(ラルフ)ブライアントとばったり会った時に、いきなり「おめでとう!」と言われた。その瞬間は「なんでや?」って思ったんですが、「これでチャンスが広がったな!」と。それで僕の中でのトレードに対する受け止め方が変わりました。当時のトレードは厄介者を追い出すようなマイナスのイメージが強かったですからね。だからブライアントに「おめでとう」と言われたのが衝撃的だった。でも、その言葉のおかげで自分は復活できたかなと思います。
――復活を目指す涌井投手の移籍1年目に期待することは?
ロッテは先発ピッチャーが足りていないですし、伊東勤監督もエースとして期待しているでしょう。でも、もしリリーフの方がハマれば、それでも良い。チームのためになれば良いと思います。あれだけの実力を持っている投手なので、今のままで終わってほしくないですよね。どんな形でも良いから、またかつてのような輝きを取り戻してほしいと思います。
――対して、今後のダルビッシュ投手に期待することは?
今のまま順調に成長して活躍してほしいですね。マダックスは20年連続2ケタ勝利で17年連続15勝以上というとてつもない記録を残しました。そういう安定感のあるピッチャーになってほしいですね。そうなれる可能性は十分にありますから。日本でも海外でもどちらでも良いんですよ。ダルビッシュ投手も涌井投手も、子供たちに夢を与えられるピッチャーですから、子供たちが憧れるようなピッチングをしてほしいですね。
<了>
(取材・構成:三和直樹/ベースボール・タイムズ)