リーダーに必要なのは資質よりも動機付け=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第3回
全日本のキャプテンを務める難しさについて語る眞鍋監督。リオ五輪を目指す指揮官が描くリーダー像とは!? 【スポーツナビ】
16年リオデジャネイロ五輪での金メダル獲得を目指す新チームで、眞鍋監督は、全日本で10年以上のキャリアを持つ27歳の木村沙織をキャプテンに指名した。これまでキャプテンの経験がなく、“年下キャラ”という木村に大役を任せた理由とは? また、一時は引退すら考えていたエースを口説き落とした方法は? 眞鍋監督に聞いた。
理想のキャプテン像に固執するな
世の中には、経営者やアスリートなどによる『リーダー論』を唱えた書籍がたくさんあります。でも、そこに書かれたノウハウ通りになぞっても、果たしてうまくいくのかと疑問に思います。
優れたキャプテン像、またはキャプテンの資質とは何でしょうか。多弁、どんな事態にも動じず、自身の力量で仲間をぐいぐい引っ張っていくようなイメージもありますが、決してそうした性格でなくても、チームを率いる方法はいくらでもある。ゴールさえ達成できれば、十人十色のリーダー像があっていいと思うのです。
リーダー像は後から作られる
眞鍋監督は、元セッターの竹下(写真)を「背中を見せてチームを統率するようなキャプテン」と分析する 【坂本清】
セッターは司令塔であり、コートの中では事実上リーダーです。ロンドン五輪の1週間前の合宿で、竹下が左人さし指を骨折するというアクシデントに見舞われました。司令塔が抜ければ、それまで綿密に重ねてきた戦術やフォーメーションが崩れます。ポジティブな私ですら一瞬、「メダル獲得は無理かもしれない」と不安がよぎりました。しかし、彼女は「五輪で絶対にトスを上げる」という気迫で、出場の意思を伝えてきました。激痛が走っていたことは確かですが、竹下は泣き言一つ言わず、見事に乗り切り、銅メダルへとつなげました。「メダルを諦めきれない」という執念とも言える彼女の強さはリスペクトに値し、それに周りが共感してチームの結束力が増します。「この人なら大丈夫」と思える抜群の安定感も、人一倍努力する竹下が残したリーダー像なのでしょう。
竹下の後任として、ロンドン五輪でキャプテンを務めたのは荒木絵里香でした。コートの中で声を張り上げ、大きくガッツポーズするなど、自らを鼓舞するように闘志を見せる選手です。彼女が吠えるだけで周りの空気がガラリと変わる。しかし、絶対的なエースではなく、決して器用な選手でもありません。だからこそ、周りは彼女をサポートしたいと思うようになります。ロンドン五輪チームは、そんな荒木を中心に、セッターの竹下、リベロの佐野優子、そしてウイングスパイカーの木村を不動の3本柱に据えて、荒木を、そしてチームを支えました。これも一つのキャプテン像であり、五輪でメダルを獲得したチームの在り方と言えます。
何か一つでもキラリと光る特長や実績さえあれば、それを生かすことに注力し、リーダー像は後から作っていけばいいのだと思います。どんなに優れた能力を持つ選手であろうが、五輪で金メダルを目指す代表チームのキャプテンを務めるのは簡単ではありません。少しずつ自分で築いていけば、目標を達成して振り返った時に、優れたリーダー像が形になっている。役職は人を変えるのです。
あえて、歴代のキャプテンの共通点を言うならば、決して自分が目立とうとする派手な性格ではなく、「チームのことを一番に考える」ということでしょうか。それは現キャプテンの木村にも当てはまることです。