リーダーに必要なのは資質よりも動機付け=バレー眞鍋監督・女子力の生かし方 第3回
燃え尽き症候群から抜け出させるための伝え方
そうした話を聞いた後、私は自分の素直な思いを話し始めました。
「ロンドン五輪で銅メダルを獲得して世間的には評価してもらえた。でも、金メダルが取れなかったことは事実で悔しさは拭い切れない。だから私もリオデジャネイロ五輪までの続投を決意した。沙織が全日本を引っ張ってくれないと、リオで金メダル獲得という最大の目標を果たすことはあり得ない。燃え尽き症候群でバレーボールをやめたいという気持ちは分かるが、前向きに考えてほしい」
1時間以上、2人で話したでしょうか。分かってはいましたが、「無理です。私には絶対に務まりません」ときっぱり断られました。それ以降、私はその話をあまり彼女にしませんでした。帰国後も、3日に1回ほどLINE(無料通話・無料メールアプリ)のメッセージで「どうだ?」と送る程度でした。
すると1週間以上が経ったある日、日本時間の23時ぐらいにイスタンブールからメッセージが届きました。
「やります。よろしくお願いします」
「え?」と驚きました。最初はバレーボールをやるのか、キャプテンをやるのかよく分からなかったのですが(笑)、急いで返信をすると、「キャプテンをやります」というメッセージが。「そうか、分かった」。彼女以外の選択肢を持たなかった私は安堵(あんど)しました。
押し付けず、動機が生まれるように仕向ける
こうした役割を任せる時は、「やる」「やりたい」という動機が生まれるように仕向けることが大切です。選手の気持ちを把握し、結論となるこちらの思いを素直に伝える。命令ではなく、強引に押すばかりでもなく、考えてもらう時間を与えました。海外でプレーすることでさまざまな思いに駆られ、自分を見つめ直している時に伝えたことも、決心する上で良いタイミングだったのかなとも感じます。
キャプテンに就任した木村は、私に「どんなキャプテンになればいいですか」と質問してきました。「それは僕に聞くことじゃないだろう。自分で考え、自分が思うキャプテンになればいい」と答えました。
キャプテン1年目の木村の行動を客観的に見ていると、決してコミュニケーションが得意とは言えないものの、若い選手に自分から話しかけ、普段は接触が少ない選手に近付いて食事をしている。アナリストの部屋に木村と選手たちが集まり、相手のデータを見ながら技術面や課題点などについて語り合う姿も見ました。初めて全日本チームに入った選手に対しては、日の丸をつける重みや、自立心の大切さについても、10年間、全日本で戦ってきた経験を踏まえて話しているようです。チームを第一に考え、懸命にみんなをまとめようとしている。それは周りの選手にも伝わっていて、一昨年とは違う木村の姿を見ています。
アキレスけん痛で治療していた中道瞳が、9月に全日本に帰ってきました。同年代の迫田さおりとともに木村をフォローし、屋台骨を支えてくれている。これからさまざまなことが起こると思いますが、そうしたサポートを得て、2年目、3年目と自分なりのキャプテン像、そして結束力の高いチームを作ってくれるだろうと確信しています。
<この項、了>
プロフィール
1963年兵庫県姫路市生まれ。大阪商業大在学中に神戸ユニバーシアードでセッターとして金メダルを獲得し、全日本メンバーに初選出。88年ソウル五輪にも出場した。大学卒業後、新日本製鐵(現・堺ブレイザーズ)に入団。93年より選手兼監督を6年間務め、Vリーグで2度優勝。退団後、イタリアのセリエAでプレーし、旭化成やパナソニックなどを経て41歳で引退。2005年に久光製薬スプリングスの監督に就任し、2年目でリーグ優勝に導いた。09年全日本女子の監督に就任し、10年世界選手権で32年ぶりのメダル獲得に貢献。12年ロンドン五輪で銅メダルに導く。