『元日・国立』ファイナルに相応しい戦い=天皇杯決勝 横浜FM対広島

宇都宮徹壱

45回続いてきた『元日・国立』もこれで見納めか?

最後の『元日・国立』ということで、この日は各入場ゲートで長蛇の列ができていた 【宇都宮徹壱】

 およそ5000以上あるといわれる全国の第1種・第2種加盟チームのうち、2チームしか立つことのできない天皇杯決勝。第93回大会の今年は、横浜F・マリノスとサンフレッチェ広島が対戦することとなった。チーム関係者と所属選手がそうであるように、取材するわれわれにとっても『元日・国立』は、実に晴れがましい気分でこの日を迎える。元日は1年で最もおめでたい日であり、国立競技場は言うまでもなく日本サッカーの『聖地』。すなわち祝賀ムード溢れる日に、数々の伝説と記憶が刻まれてきた「聖地」に集うことは、これ以上ないくらいの高揚感をサッカーファンに喚起する。しかしそうした伝統行事も、ひとまず今大会が最後である。

 周知のとおり、現在の国立競技場は2020年に開催される東京五輪のメーン会場に生まれ変わるべく、今年7月より大々的な改修工事に入る。それまでは高校選手権の準決勝と決勝、そして3月5日の日本代表の試合(対ニュージーランド戦)も改修前のスタジアムで開催されるが、『元日・国立』は今回が最後だ。そもそも、天皇杯決勝が『元日・国立』で固定化されたのが、1968年度の第48回大会から。日本が銅メダルを獲得した、メキシコ五輪の開催年である。以来、実に45回。第2次世界大戦やその後の世情不安などの理由で、大会そのものが中止となった回数を除くと、過去の決勝の半分以上が『元日・国立』で行われたことになる。

 とりあえず次回の天皇杯決勝は、2014年12月13日に横浜の日産スタジアムで行われることが決まっている。しかしながら、それ以降のスケジュールについては、一切が未定。新しい国立競技場が完成するのは2019年とされ、おそらくそこで天皇杯の決勝が行われるのは翌2020年になると思われるが(奇しくも第100回大会に当たる)、それが『元日・(新)国立』となるかというと、現時点では分からない。ただ私が思うに(そして何人かの同業者も同意してくれたのだが)、今回の大改修を契機として日本サッカー界のカレンダーは刷新され、もはや元日での試合は行われないのではないか、というのが現時点での予想だ。もし本当にそうなれば、今回のファイナルは、まさに最後の『元日・国立』ということとなる。

いずれもチャレンジャーの横浜FMと広島

ホーム側に陣取る横浜FMのサポーター。前半の2ゴールで大いに盛り上がっていた 【宇都宮徹壱】

 さて、前述のとおり最後の『元日・国立』は、横浜FMと広島の顔合わせとなった。今季J1リーグの2位と1位との対戦ということで、準決勝終了時点で、来季のゼロックス・スーパーカップも同一カードとなること、そしてリーグ4位のセレッソ大阪が繰り上げでACLに出場することが決まった。すでにACL出場権をめぐる戦いは終わり、この決勝は「どちらがカップを奪い取るか」という一点に収斂された感がある。横浜FMは優勝回数6回、広島は3回。いずれも天皇杯を掲げた経験を複数回持っているが、前者が最後に優勝したのは21年前、後者に至っては45年前(この時は「東洋工業」として2冠を達成)まで遡らなければならない。いずれも天皇杯というタイトルに飢えていた、という部分で両者は共通していた。

 そしてもうひとつ理解しておく必要があるのが、両者の力関係である。今季、広島はリーグ2連覇を果たしたものの、横浜FMとはホーム&アウエーともに敗れている。というより、森保一監督時代になって一度も勝てていない(広島が最後に横浜FMに勝利したのは、ペトロヴィッチ監督時代の2011年5月14日でスコアは3−2)。指揮官は「苦手意識というのは、この試合に臨むにあたって僕もなかったし、選手も持っていなかったと思います」と語っているが、さりとてまったく無視できるデータではなかっただろう。あくまでもリーグ戦の順位だけを見れば、2位に終わった横浜FMがチャレンジャーであったのは衆目の一致するところ。しかしながら「直接対決で勝利していない」という意味では、広島もまたチャレンジャーであった。それだけに、この直接対決を制して優勝したいという思いもまた、両者に共通していたのである。

 この日の横浜FMは、準決勝でサスペンションだった右サイドバックの小林祐三が復帰。足首の不調を訴えて前半で退いた栗原勇蔵もスタメンに名を連ね、ディフェンスラインはいつもの4人がそろった。しかしFWの藤田祥史が2枚目のイエローで出場停止となり、代わりに端戸仁をワントップに起用。ただし、ベンチにFW登録選手がひとりもいないのが気になるところだ。対する広島は準決勝と同じメンバーだが、こちらの懸念材料は疲労。準々決勝(12月22日のヴァンフォーレ甲府戦)と準決勝(29日のFC東京戦)、いずれも120分を戦った上にPK戦でようやく競り勝つという展開だった。そのいずれもが劇的な展開ではあったものの、確実に選手たちの疲労は蓄積されているはずである。

 果たして、試合は前半の早い時間帯で動いた。17分、横浜FMは小林が右サイドをドリブルで鋭く切り込む。すぐに広島の守備陣が囲むが、セカンドボールを端戸、そして中町公祐がつないで、最後は齋藤学が鋭い右足の一振りで先制ゴールを挙げる。その2分後には広島にチャンス。右サイドから石原直樹がミドルシュートを放つも、これは横浜FMのGK榎本哲也がニアで好セーブを見せた。決まっていれば、かなりスリリングな展開になっていただろう。が、その期待を横浜FMが打ち砕くことになる。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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