ロンドン五輪の立役者は? 世界新、連覇など記録的観点から振り返る=陸上

K Ken 中村

ボルト、ルディシャの活躍

大会前は不安視されていたボルトは、2大会連続2冠。リレーでは世界新で金メダルに輝いた 【写真は共同】

 ロンドン五輪、花形といわれる陸上競技で、一番の立役者は誰だろうか――?

 男子100メートルと同200メートルの2冠を2大会連続で成し遂げたウサイン・ボルト(ジャマイカ)で決まり、と思う人は多いだろう。果たしてそうだろうか?

 北京と異なり、ボルトは個人種目での世界記録こそ樹立できなかったが、200メートルでは五輪初の2連勝を成し遂げ(1906年の暫定五輪を除く)、史上2人目となる100メートルの連覇と合わせて、五輪初の短距離2大会連続2冠を達成した。もちろんボルトは、史上最高のスプリンターと言ってもいいだろう。

 しかし、男子800メートルを世界新記録で制したデービッド・ルディシャ(ケニア)の偉業も特筆に価する。なぜならば勝つことが重視される五輪で、中長距離の世界記録が樹立されることは、近年まれになっているからである。
 男子1500メートルの世界記録が、五輪で最後に樹立されたのは60年ローマ五輪、800メートルでも76年モントリオール五輪までさかのぼらなければならない。100メートルと200メートルの世界記録が、それぞれ96年アトランタ五輪と2008年北京五輪で記録されたことと比べればかなり対照的である。

 しかも今大会、ルディシャは最初から最後まで先頭を走り、誰の力も借りずに世界記録を樹立したのだ。それだけではない。他の選手たちは大本命のルディシャが作るハイペースに臆することもなく、果敢にルディシャを追走、結果的には1位から8位までファイナリスト全員が順位別最高記録の樹立に至ったのである。レース全体を考慮すれば史上最高のレースのひとつといえる。

 さらに驚くべきことは、男子800メートルでは今まで五輪と世界選手権の両大会を制した選手がいなかったと言うことだ。ルディシャが金メダルを獲得したことで、両大会を制した初めての選手となった。加えて、女子400メートルではサーニャ・リチャーズロス(米国)が五輪と世界室内選手権の両大会を制した選手となっている。

男女長距離2冠の懸けた戦い

地元英国の期待を一身に受け、ファラーは長距離2冠を達成した 【写真は共同】

 今回ホスト国だった英国民に五輪一番の立役者を尋ねれば、多くの人が男子5000メートルと同1万メートルの2冠を成し遂げたモハメド・ファラー(英国)と答えるだろう。ナイトの称号も目前だと言われているファラーは、英国人として初めて五輪1万メートルを制し、その1週間後には5000メートルでこれまた英国選手初の金メダルを手にした。
 男子で5000メートル、1万メートルの長距離種目に同時に出場し、2冠を成し遂げた選手は過去6人(ハンネス・コーレマイネン、エミール・ザトペック、ウラジミール・クーツ、ラッセ・ビレン、ミルツ・イフター、ケネニサ・ベケレ)いる。しかし、人間機関車ザトペックもケネニサ・ベケレ(エチオピア)も一回目の挑戦では5000メートルで銀メダルに終わっている。その難しい2冠をファラーは最も重圧が掛かる地元の五輪でやってのけたのだ。(ファラーは北京五輪では5000メートルのみに出場し、予選敗退)

 一方、女子5000メートルと同1万メートルでは、北京五輪2冠のティルネッシュ・ディババ(エチオピア)と前年世界選手権2冠のヴィヴィアン・チェルイヨット(ケニア)の二人が、ともに長距離2冠を目指して真っ向からぶつかった。

 初日に行われた1万メートルでは、終盤ティルネッシュが先頭でレースをコントロールして優勝、いとこにあたる(※)デラルツ・ツル以来、五輪で1万メートルを2度制した2人目の選手となった。同時に2冠に挑戦する権利を得たディババ、もし成功すれば男子選手でも70年代のビレン一人しかいない2大会連続長距離2冠となり、最も偉大な長距離ランナーの仲間入りを果すことになるはずだった。
 しかし、ここでティルネッシュの前に立ちはだかったのはチェルイヨットではなく、04年アテネ五輪の5000メートル金メダリストであるチームメートのメセレト・デファー(エチオピア)だった。1万メートルと同じく5000メートルでも終盤先頭に出てレースをコントロールしようとしたティルネッシュだが、最後はスパート合戦に敗れ、5000メートルは銅メダルに終わった。

 ティルネッシュの2冠の夢は破れた一方で、デファーは8年の年月を経て五輪タイトルを奪回した。これは、女子のトラック種目では92年バルセロナ五輪と00年シドニー五輪で優勝した1万メートルのツルに次いで2人目の快挙だった。一方男子でも今回の五輪で400メートルハードルのフェリックス・サンチェス(ドミニカ共和国)と3000メートル障害のエゼキエル・ケンボイ(ケニア)の二人が、アテネ五輪から8年振りに王者へと返り咲いている。

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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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