ロンドン五輪の立役者は? 世界新、連覇など記録的観点から振り返る=陸上

K Ken 中村

三連覇達成はならず

3連覇を狙った4選手のうち、表彰台に立ったのは銅メダルのイシンバエワのみという結果に終わった 【Getty Images】

 今大会、3連覇に挑んだ選手もいる。男子1万メートルのケネニサ・ベケレ、同やり投のアンドレアス・トルキルドセン(ノルウェー)、女子200メートルのベロニカ・キャンベル=ブラウン(ジャマイカ)、そして同棒高跳のエレーナ・イシンバエワ(ロシア)の4人。しかし、全員が敗れた。しかもメダルを獲得したのは、銅メダルのイシンバエワだけで、他の3人はメダルさえも取れなかった。

 一方、連覇に成功したのは、前述の選手のほかに男子砲丸投のトマシュ・マエフスキ(ポーランド)、女子100メートルのシェリーアン・フレーザープライス(ジャマイカ)、同やり投のバルボラ・シュポタコバ(チェコ)、そして同砲丸投のバレリー・アダムズ(ニュージーランド)の4人である。女子やり投と同砲丸投では五輪史上2人目、男子砲丸投と女子100メートルでは五輪史上3人目の連覇だった。

ユース、ジュニア覇者が五輪金メダリストに

 10代のころ、ユース世代で一流だった選手が、20代になって超一流の選手に成長するとは限らず、現在でも世界ユースメダリストが五輪でメダルを獲得したことがない種目が、男子だけでも11種目と結構多い。

 今大会では、5人の世界ユース・チャンピオンが、今までユース金メダリストとして一度も五輪で勝っていない種目で優勝を成し遂げた。男子400メートルのキラニ・ジェームズ(グレナダ)、同ハンマー投のクリスティアン・パルシュ(ハンガリー)、女子100メートルハードルのサリー・ピアソン(オーストラリア)、同走高跳のアンナ・チチェロワ(ロシア)、そして同20キロ競歩のエレーナ・ラシュマノワ(ロシア)の5選手である。

 さらに、ユースより上の世代となる、世界ジュニアと五輪の両大会を初めて制した選手も、新たに4種目で現れた。男子800メートルのルディシャ、同110メートルハードルのアリス・メリット(米国)、同やり投のケショーン・ウォルコット(トリニダード・トバゴ)、そして女子20キロ競歩のラシュマノワの4人である。
 特にウォルコットは今年の世界ジュニア選手権で優勝したばかりの、まだ19歳である。それだけではない。今まで五輪の男子やり投でメダルを獲得したのは、米国選手を除けば全員が欧州勢だった。その種目で中南米出身のウォルコットが優勝してしまったのだ。
 余談だが、男子110メートルハードルのメリットは五輪でも準決勝、決勝で12秒台を記録。全米選手権の決勝も12秒台で走っている。ほかの大会を含めた決勝レースのみで見ても、4連続12秒台と連続記録を更新中だ。

 男子400メートルのジェームス、女子100メートルハードルのピアソンの2人は今回五輪で優勝したことで、可能なタイトルのほぼ手に入れた。世界ユース、世界ジュニア、世界選手権ですでに優勝していたジェームスは、世界室内選手権以外は可能なメジャータイトルをすべて獲得した。オーストラリア人のピアソンは世界ジュニアで4位に終わった以外、英連邦大会を含めて彼女に可能なすべてのタイトルを得ている。女子800メートルのマリヤ・サビノワ(ロシア)は世界ユースと世界ジュニアを制していないが、欧州選手権と欧州室内選手権を含め、出場権がある大会すべてでの金メダル獲得となった。

世界新、五輪新など好記録ずくめ

 今大会は、4種目で世界記録が記録され、6種目で五輪記録が樹立された。特に男子800メートルではルディシャが初の1分40秒台を記録し、男女リレーでは世界記録が40年振りに塗り替えられた。4×100メートルリレーの世界記録が最後に同時に樹立されたのは、72年のミュンヘン五輪までさかのぼらなければならない。

 また、今回好記録が連発しており、2位の順位別最高タイムが男子200メートル、同4×100メートルリレー、女子100メートルハードル、同400メートルハードルの4種目で記録された。男子200メートルでは歴代7位、女子100メートルハードルでは歴代21位、そして同400メートルハードルでは歴代12位の記録をたたき出した選手が、銀メダルに終わっているのだ。特に男子4×100メートルリレーでは米国がそれまでの世界記録タイに当たるタイムで走ったにもかかわらず、ジャマイカの世界新記録に阻まれて、優勝はできなかった。

 一方でアジア勢の躍進も光った。今回、男子20キロ競歩と同50キロの競歩、男女円盤投、そして女子三段跳の5種目でアジア選手が初めて五輪のメダルを獲得。特に男子20キロ競歩の陳定(中国)と女子三段跳のオリガ・ルイパコワ(カザフスタン)はアジア選手として初の金メダルとなった。

 輝かしい成績がある一方、不名誉な記録もある。72年ミュンヘン五輪に創設された女子1500メートルは過去10回行われたが、今回の優勝記録4分10秒23は、最も遅い優勝記録である。また、男子400メートルでは準決勝で米国勢が全て姿を消した。米国選手がいない五輪400メートル決勝はボイコットされた80年モスクワ五輪を除いて、史上初だった。

 陸上競技の次の大きな大会は来年8月に行われる世界選手権(ロシア・モスクワ)だが、その大会でも記録的観点から様々な見どころが期待される。

<了>

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著者プロフィール

三重県生まれ。カリフォルニア大学大学院物理学部博士課程修了。ATFS(世界陸上競技統計者協会)会員。IAAF(国際陸上競技連盟)出版物、Osaka2007、「陸上競技マガジン」「月刊陸上競技」などの媒体において日英両語で精力的な執筆活動の傍ら「Track and Field News」「Athletics International」「Running Stats」など欧米雑誌の通信員も務める。06年世界クロカン福岡大会報道部を経て、07年大阪世界陸上プレス・チーフ代理を務める。15回の世界陸上、8回の欧州選手権などメジャー大会に神出鬼没。

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