川崎とF・ニッポンのありえないコラボ=等々力のトラックを疾走したフォーミュラカー

江藤高志

相思相愛でスタート

等々力競技場を疾走したフォーミュラ・ニッポンのマシン 【吉田知弘】

 甲高いエンジン音を響かせてフォーミュラカーが疾走する。それを見守る18000人あまりの観客はその迫力と非日常的な光景に目を輝かせた。6月30日に行われたJ1第16節、川崎フロンターレvs.ヴィッセル神戸の試合直前。等々力陸上競技場のトラックでの出来事だった。

 日本サッカー界の頂点に位置するJ1リーグ所属の川崎フロンターレと、日本のレース界最高峰のフォーミュラ・ニッポンとのありえないコラボレーションを実現させたのは、川崎が誇るプロモーション部の2人。1人はJリーグ界屈指のアイデアマンとして知られる天野春果氏と、その片腕として数々のイベントを取り仕切ってきた恋塚唯氏である。
「きっかけは、天野とサーキットを運営する会社の担当者さんとの話でした。その後、わたしがこの案件を任されることになり、1月の中旬から打ち合わせを始めました。2月10日には実際に担当の方とお会いして、そこからフォーミュラ・ニッポンを統括する日本レースプロモーション(JRP)の担当者である小檜山さんを紹介していただきました」(恋塚氏)

 ここで簡単にレース業界の仕組みを説明しておく。サッカーで言うところの公益社団法人日本プロサッカーリーグ(いわゆるJリーグ)にあたるのが、株式会社日本レースプロモーションで、Jクラブにあたるのがレーシングチームということになる。つまり、Jクラブに所属するプロサッカー選手は、レーシングチームと契約するドライバーの位置づけとなる。

 川崎から、等々力陸上競技場での走行を打診されたJRPの対応ははじめから前向きだった。JRPの白井裕社長は「(JRPは)昔から日本プロスポーツ協会に加盟しており、その理事として異業種とのコラボというのをやるべきだと言ってたんです」と話す。その白井社長に続き、口を開いた小檜山和秀広報は「今まではサーキットに来てもらうための告知活動に主眼をおいていたんです。ただ、われわれにはパッケージとして、車とドライバーを動かせる。であるならば持って行こうと。そんなときにフロンターレさんからいいお話をいただけたというわけです」。

最大の懸案事項は陸上トラックの保護

 相思相愛の形となった川崎とJRPが打ち合わせを進めると、3月1日にJRPの関係者が等々力陸上競技場を訪れてフォーミュラカー走行の実現性について検討した。最大の懸案事項は陸上トラックの保護だった。

「なにしろ陸上トラックでの走行についてデータがない。トラックがはがれてタイヤに絡まり、めくれちゃうんじゃないかとか、いろいろ心配しました。ただ、われわれも現場を見に行ってチェックしたところ、結構層も厚いし大丈夫だろうという感触を得ることができたのです」(白井社長)

 この3月1日の視察によりJRP側のゴーサインが出たことで、恋塚氏は等々力陸上競技場の使用許可を受けるべく川崎市当局と交渉を開始。その動きと並行して、JRP側とイベントの詳細を詰めていく。

「JRPさんにはとにかくトラックで走らせたいということ。そのために本物のドライバーとフォーミュラカーに来てもらいたいとお願いしました。こちらのリクエストに対しては、すべて前向きに検討していただけました」(恋塚氏)

 その一方で、JRP側はフォーミュラカーを等々力陸上競技場に派遣するための段取りを付けていく。広報の小檜山氏が説明する。

「今回走行したトヨタのトムスさんの本拠地が御殿場で、ホンダさんのファクトリーは京都にあるんです。そこからのレースカーの輸送代はもちろん、走らせるためのスタッフが1チームあたり6〜7人ほど。彼らの移動、宿泊、食事の費用や日当などを考えるとどうしてもお金がかかってしまいます。ドライバーが来て車を走らせる場合、絶対的な安全性が求められる。その中でフルのパフォーマンスを出すためにはある程度の費用が必要なんです」

 明言こそしなかったが、今回のこのイベントには合計で数百万円の費用がかかったという。ただしこれらの費用について白井社長は「告知のイベント用に予算があるので、そこから組み入れることができました。今回のイベントは、7月14日、15日にかけて行われる富士スピードウェイでの大会の告知になります」と述べる。いずれにしても、当初予定していた告知用の年間予算の範囲内に収まっているという。

 その一方、交渉が続いていた市当局からの使用許可が最終的に出たのが6月18日のこと。恋塚氏は市の担当者から「『うまくやってください』と。この神戸戦の次の日に陸上の大会があったので、『ちゃんと現状復帰して返してください』」とだけ言われたという。ある意味重みのある言葉だが、ここで川崎に強みがあるのは陸上トラックで車を走らせた経験があったという点。この神戸戦のハーフタイムにも行われた西城秀樹さんのイベントである。

「車に関しては西城秀樹さんのイベントでの実績があった。もちろん速度はぜんぜん違うという話にはなりましたが、車自体が軽い。速度を出すために軽量化されている最新鋭の車(660キロ程度。最も軽い軽自動車が700キロ程度)だから陸上トラックにかかる重量によるダメージは乗用車よりも少ないんです」(恋塚氏)

 ただし、トラックを傷める可能性はまだある。強烈なパワーによるタイヤ痕、いわゆるブラックマークをトラックに付けてしまう可能性である。こちらについては万が一付けた場合、どうやって洗浄するのかといったシミュレーションが行われる一方、実機を持ち込まないと最終的な調整はできないとのことで、本番当日に入念なリハーサルが行われることとなる。

1/3ページ

著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント