五輪3連覇・野村忠宏が語るロンドンへの道=柔道GS直前、独占インタビュー

長谷川亮

ロンドンへの選考会を兼ねた柔道GS東京大会が9日開幕、五輪3連覇の野村忠宏が語るオリンピックの厳しさとは 【t.SAKUMA】

 来年のロンドンオリンピック代表選考会となる「柔道グランドスラムTOKYO 2011」が9日より開幕となる。

 9日〜11日の3日間に渡り放送を行うテレビ東京では吉田秀彦と谷本歩実の両金メダリストが解説を務めるほか、特別ゲストとして野村忠宏が登場する。アトランタ・シドニー・アテネのオリンピック3大会を制した“勝負師”野村が語る、オリンピックの厳しさとは。スポーツナビ特別インタビューに応え、大会注目選手からその鋭敏な勝負論までを語った。

■来年の五輪へ向けここからが本当のスタート

――「柔道グランドスラムTOKYO 2011」の開催がいよいよ近づいてきました。テレビ放送で特別ゲストを務める野村さんから、この大会が持つ意味合いについて教えてください。

野村「来年のロンドン五輪へ向け、各階級たった一つしかない枠を巡ってこれから本当にし烈な争いになっていきます。代表候補が絞られてきてここからが本当にスタートだし、そういった意味で大切な大会です。海外からもいい選手が揃ってくるという話も聞きますし、日本で開催される唯一の国際大会なので、日本の人たちがたくさん見ている中で、自分の強さやロンドンへ向けての意気込みをアピールするめったにない大きなチャンスになると思います」

――やはり選手の立場からすると、ホームの日本開催ということで意気込みも違ってくるのでしょうか。

野村「大会によって区別するものではないですけど、友人・知人・家族が会場に来てくれるし、テレビを通じてたくさんの人が応援してくれるということで、プレッシャーで緊張はあると思います。でもプレッシャーも掛かりますが、それをうまく消化できれば自分の力にもなります。そういった意味で、選手はやりがいを感じる大会だと思います」

1回ミスしたら次は4年後……選手には“厳しさを持った強さ”を

五輪を目指す選手には“厳しさを持った強さ”をと語る野村 【t.SAKUMA】

――プレッシャーの大きい日本大会ですが、オリンピックではより以上のプレッシャーが掛かりますし、ここで精神的重圧に負けしまってはいけないですね。

野村「今回は各階級に日本人選手が4人出ますが、オリンピックの代表は1人です。ですから『俺以外にも誰かがいる』と思うのではなく、個々の選手が日本代表としての重みを感じながら試合をしてほしいと思います。そうでないと、その階級を背負って立つのが1人となった時に委縮して勝てない選手、力を出し切れない選手というのが出てくるんです」

――世界一を争う拮抗した戦いでは、そうした重圧に縛られず伸び伸び戦うことができるかも勝敗を左右するのでしょうね。

野村「応援というのはすごく力になりますが、試合前のプレッシャーとか恐怖というのは共有できないものなんです。やはりそういう部分には孤独があります。でも、そういったものをしっかり受け止めて、力に変えれる人間がチャンピオンになれる権利というか、チャンスを掴めるんだと思います。相手との勝負、そして自分自身の気持ちとの勝負。だから本当に厳しい気持ちを持たないと。オリンピックでは1回ミスしたら次は4年後ですから」

――4年に1度のオリンピックで勝つことの難しさを知る、野村さんならではの言葉です。

野村「だからこそ選手たちはその4年の重みを感じて、1つの気の緩みで4年間を失うことにもなるのだから、1試合1試合に対して厳しさを持って戦ってほしいと思います。『あぁ負けた、次頑張ろう』じゃないですから。だからこれからの最終選考レースに対しては、特にそういう緊張感というのを持っていかないといけない。そういう“厳しさを持った強さ”を試合を通して身につけて、オリンピックでメダルを取れる選手になってほしいと思います」

――野村さんがオリンピック3連覇を達成できたのは、そうした“厳しさを持った強さ”を身につけることができたからでしょうか。

野村「練習で強くなれる部分と、試合でしか強くなれない部分というのがあるんです。本物の強さはやはり試合の中でしか磨けない。それはやっぱり緊張感です。その中で競り合った試合をし、自分より格上と言われる選手とギリギリの勝負の中で勝つとか。あと自分がポイントをリードしてると、そのポイントを守って逃げ切りたい気持ちになるんですが、その気持ちを持った時に実際どう戦うのか。リードしてる選手には審判からも厳しめに指導が来ますし、そこで守りに入って逆転負けする選手も多いですから、そういう気持ちになった時いかに攻めの気持ちを持てる選手になるかです」

重量級の鈴木桂治、穴井の逆襲に期待

逆襲なるか、鈴木桂治の戦いぶりに注目 【写真は共同】

――“厳しさを持った強さ”とは妥協なく勝利を求めにいく姿勢でもあるのですね。では、過酷な最終選考のスタートとなる、今大会の注目選手を教えてください。

野村「まず自分と同じ階級の60kg級ではベテランになってきた平岡(拓晃)選手と若手の山本(浩史)選手、この2人が1番手と2番手でしょう。平岡選手は世界選手権で2位や3位の実績ではありますが、もうベテランで2位や3位が惜しいと言ってられない立場にあります。それが伸び盛りの山本選手とどういう試合をするのか。これは同じ階級として一番注目しています。
 あとはやっぱり(鈴木)桂治(100kg超級代表)ですかね。彼は自分がアテネを目指して2年のブランクから戻ってきた頃、2003年ぐらいかな、ちょうどグッと伸びてきた選手で。その頃はまだ若造だったのに(笑)、今はもうベテラン中のベテランになって。栄光も挫折もいろんな経験もして、その中でもう一度世界を目指す。北京の悔しさもあるでしょうし、周りの声も賛否あると思うけど、その中で何とか食らいついて頑張っているから、そういう鈴木選手がロンドンへ向けてどういう戦いをするのかは楽しみでもあり、個人的にも頑張ってほしいと思っています」

――最近の鈴木選手は全日本選手権を制して復活を果たしたかと思えば世界選手権ではメダルに届かなかったり、調子が安定していない印象がありますが、野村さんはどうご覧になっていますか?

野村「鈴木選手がかつて世界を制した足技がなかなか見られなくなって。研究されてる部分もあるけど、やっぱりあの足技のキレを取り戻すことが100kg超級で自分より一回り以上大きな選手と戦うポイントになると思います。
 あと注目は、天理大の後輩の穴井(隆将、100kg級代表)。勝ったり負けたりでハッキリせぇと。ほんとに地力はあるし強いです。でも年齢的にも日本のエースにならなきゃいけないし、100kg級ではあるけど日本柔道を引っ張る存在になってほしいです。だからこそ勝ったり負けたりという試合は見たくないし、もう一度ロンドンに向けて不安定な強さを本物の強さに変えて、オリンピックまでに仕上げてほしいと思います」

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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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