【注目施設探訪 第1弾(後編)】 史上初の“1部復帰即優勝”の帝京大学を支えた最新トレーニング&増量時に重要な「ボディイメージ」

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【©中島大輔】

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※前後編の後編


4季ぶりに首都大学リーグ1部に復帰した2024年春、史上初となる“1部復帰即優勝”を果たしたのが帝京大学だ。全日本大学野球選手権では53年ぶりにベスト8に進出するなど、全国の舞台でも実力を示した。

躍進を裏で支えたのが、前編でも紹介した帝京大学スポーツ医科学センターだった。

帝京大学スポーツ医科学センターは2018年に開設。講師を務める大川靖晃氏は同じタイミングで着任し、同大の野球部でもトレーナーとして携わり始めた。

八王子キャンパス内にある同施設には、動作解析をできるMPI TOKYOやトレーニングルームなど最新設備がある。当初、希望する1年生を中心にトレーニングが行われると、彼らが学年を上がるにつれて評判を呼び始めた。

「授業の合間にトレーニングができて、しっかり取り組んでいる選手は結果が出ている」

トレーニングに来る選手は毎年増えていき、今春はレギュラー9人のうち8人が同センターで取り組む選手だったという。

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「野球は速い動きで力を出さなければいけない」

帝京大野球部でとりわけ力を入れて行っているのが、カイザー社の器具を使用したトレーニングだ。大川氏が説明する。

「空気圧をかけて、力を爆発的に発揮してスクワットをする器具(AIR300 スクワット)があります。これに取り組んでいる選手たちはみんな、『この数値が上がってくると、打球が速くなったり、球速が上がったりする』と言っています」

カイザー社の器具を使う目的について、大川氏は「スピードを意識したいから」と続ける。

「野球は速い動きで力を出さなければいけないのに、普段行っているトレーニングでは動きがゆっくりのものが多いです。スクワットにしても、バーベルが重くなってきたら『よいしょ』という感じで上げる。これではスピードが出せません」

同じスクワットをするのでも、バーベルとカイザー社の器具では効果が異なると大川氏は指摘する。

「バーベルの難点は、ガンと上げた瞬間に上方向に勢いがつくので、途中からバーベルが浮いているような感じになります。力が強くなればなるほど、バーンとバーベルを上げた瞬間に器具が上がって、最後はドシーンと落ちて来るような力の働きになるので、最後まで上げ切れません。それに最後はバーベルを止めないといけないので、途中でブレーキをかけ始めることになります。

一方、カイザーの器具は空気で圧をかけているので、バーンと上げてもバーベルの下方向に圧がかかっていて、最後まで上げてもバーベルが浮かない。だから最後まで力を出し切りやすいです。

空気で圧をかけていて、それに対抗して力を出した瞬間、パワーの数字が表示されます。基本、バーベルの重さが一緒だったら、パワーが大きい方がスピードが速いということです。選手たちにはその数字を見させて、とにかくスピードを意識させています。

やり方としては、バーベルを1回上げて、2回目でスピードが落ちたらそれで終わり。スピードを出す練習をしているので、出なくなっているのに続けても絶対にそれより速くなりません。もし1回目より2回目のほうが速かったら、もう1回上げます。それで下がったらストップ。そういうセットで実施しています」

帝京大野球部では2018年からカイザー社の器具を使ってスクワットを行い、例えばホームランバッターやレギュラーなど選手のタイプに応じてどれくらいの数字を出せるかがわかってきた。つまり、トレーニングに目標の数字を持って取り組めるようになってきたわけだ。大川氏が続ける。

「トレーニングを始める選手たちはタイプに応じ、数字の目標を持って取り組めます。先輩のデータも残っているので、『これくらいの数字を出せればこういう選手になれる』と目指していける。それは結構大きいと思いますね」

【©中島大輔】

中学生もトレーニング動作の形を習得

トレーニングの重要性は日本球界でも広く浸透し、高校年代以上では多くのチームが日常的に取り組んでいる。

では、どれくらいの年代で始めるのがいいだろうか。

「例えばスクワットをする場合、おもりをつけずにバーベルだけで行うことや、すごく軽い重さで動作の形を習得しておくのは大事だと思います。それは中学生で行ってもいい。動作の形をちゃんとつくっておけば、高校に進んだ後、バーベルにおもりを乗せて自分の形でできますからね。

おもりを乗せるのは、高校のどこかのタイミングかなと思います。同じ年齢でも、高校生くらいまではプラスマイナスで2歳くらいの成長差があるので。出来次第で、できている人はどんどん重さを上げていく。できていない人は、体に合わせた重さで行うのがいいと思います」

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一気の増量はアリか、ナシか

高校、大学、社会人、プロと体ができてくると、シーズンオフにウエイトトレーニングや食事量を増やして一気に増量する選手もいる。例えば、「8kg増」などだ。体重がつけばパワーを発揮できる可能性は高まる半面、動きにくくなるリスクも潜んでいる。

体重を一気に増やすことの是非について、大川氏はどう考えているのだろうか。「増やしても大丈夫な人もいるし、そうでない人もいます。大事なのはボディイメージ。自分で自分の体をどう思っているかというイメージのことです」

自分はボディイメージを正しく持てているかどうか。大川氏が帝京大の授業でも行っているという検査法を二つ紹介したい。


(1)かかとに線を引き、そこから寝る体勢になったら自分の頭はどこにあるか。予想する位置にペンを置いてみよう。

実際に寝てみて、ペンを置いた場所と寝たときの頭の位置が大きく離れていたら、「自分を思っているより小さく(あるいは大きく)感じている」。このケースは、ケガにもつながりやすいと大川氏は指摘する。


(2)A4の紙を用意。自分の足を見ずに、足の輪郭を描く。描き終わったら、実際に足を乗せてみる。

実際より小さく描き、足を乗せてみたらはるかに大きかった場合、捻挫に要注意。自分の足はこう着くと思っていても、実際の足は大きいので、早めに足が当たってしまいグキッとひねる可能性も危惧される。

ボディイメージのキャパシティ

以上を踏まえると、ボディイメージの重要性が理解できるだろう。

体重を一気に増やす際にも、同様のことが言える。大川氏が説明する。

「例えば、体重が8kg増えたとします。バッティングをするとして、8kgのうち腕が2kg重くなっていたら、いつもより2kg思い腕で打たないといけない。つまり、感覚がいつもと違うはずです。

自分のボディイメージを広げていくときの限界を超えていたら、自分が思っているように動いていないということなので、そこまで増やすのは良くないと思います。逆に自分のキャパシティの範囲内で、体重が増えても思った通りに動かせるなら問題ありません。どこまで増量するかは、その人の持っているキャパシティ次第かなと思いますね」

体重を一気に増やすのは、体が動きにくくなるリスクも伴う。だからこそ、少しずつ感覚を確かめながら増量したほうがいいわけだ。大川氏が続ける。

「例えば500gや1kg増えていくたびにバッティングやキャッチボールをして、ちゃんと感覚を確かめたほうがいいと思います。『これくらいの増量ならまだ大丈夫』と感じたら、もう少しずつ増やしていき再度確認する。そうやって徐々に取り組みながら、感覚がズレない程度に増やしていくことが大事だと思います」

一言でトレーニングと言っても、方法や目的は多岐に渡る。自分は何を目指して行うのか。その点を明瞭にしておくことが重要だ。


(文・中島大輔)
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著者プロフィール

「Homebase」は、全日本野球協会(BFJ)唯一の公認メディアとして、アマチュア野球に携わる選手・指導者・審判員に焦点を当て、スポーツ科学や野球科学の最新トレンド、進化し続けるスポーツテックの動向、導入事例などを包括的に網羅。独自の取材を通じて各領域で活躍するトップランナーや知識豊富な専門家の声をお届けし、「野球界のアップデート」をタイムリーに提供していきます。さらに、未来の野球を形成する情報発信基地として、野球コミュニティに最新の知見と洞察を提供していきます。

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