イチロー検証<その3>:今季の成績は、契約交渉の不利となりうるか?
来季が5年契約の最終年
来季、5年契約の最終年を迎えるイチロー。今季の成績が不利になることはあるのか? 【Getty Images】
2007年のキャンプ初日、イチローは自ら契約最終年となっていた自らの立場について口を開いた。
そのときの、こんなコメントが今でも記憶に残る。
「僕は15年も(野球を)やってきたけど、一度もFA権を取ったことがない。そんな選手って多分いないでしょう?
自分で何かを選ぶということも、プロに入ってからなかった。まあ、ドラフトから始まってね。アメリカに行きたいという意志は表したけれど、それも僕の意志でどこかに行けるわけではなかったから……」
だが、イチローはその年、MVPを受賞したオールスターゲームが終わってすぐに、5年契約を発表。結局、手にするはずだったFA権を放棄したわけだが、来季がその5年目。これまでの例に倣うなら、またFAになる前に再契約を交わす可能性もある。実際、水面下での交渉は始まっているようだ。
前回の契約は、5年9000万ドル(当時のレートで約109億8000万円)。当時は33歳で、それまでの実績、今後の期待など、すべての面でイチローにとって有利な交渉条件がそろっていたと言える。
イチローにとって有利なカードとは?
少なくとも今季の数字が有利に働くことはなく、名前を伏せて、打率2割7分2厘、5本塁打、80得点、47打点、出塁率3割1分3厘、盗塁40という成績だけを見れば、来季で38歳という年齢を併せ考えたとき、せいぜい年500万ドル(約3億9000万円)の2年契約が現実的な落としどころだろう。
しかしながら、イチローの代理人の立場に立てば、まだまだ有利なカードが手の内にある。
例えばかつて、ドントレル・ウィリスの代理人はマーリンズとの交渉で、ウィリスが登板する日は観客が増加していることなどを根拠に、増額を勝ち取ったことがある。マリナーズも、広告収入、観客収入、グッズ収入など、これまでにイチロー・ブランドによってもたらされた経済効果を否定できず、それは1年目と比べれば下がっているのかもしれないが、今後も期待されている部分は少なくない。
また、10年連続200安打など、過去の実績も当然併せて評価されるべきだ。そうした契約は俗に、『デレク・ジーター契約』と呼ばれ、昨年12月にパフォーマンスの衰えが隠せなくなった彼が、3年5100万ドルでヤンキースと契約延長を交わしたときには賛否両論あったが、必ずしも否定されたわけではなかった。
議論が起きるとしたら、それがイチローにも適用されてしかるべきかどうかだが、それが無謀な数字ではない限り、ファンも納得するのではないか。ただし、イチローがそうした契約を望まないとすれば、このオフの交渉は凍結され、来季きっちり数字を残してから交渉を再開する、という流れになるかもしれない。