どっちも想定外 “強い”マリナーズと“不調”のイチロー

木本大志

昨季とは違う何か

好調のマリナーズ。今季は逆転勝ち、サヨナラ勝ちなど昨季にはあまり見られなかった光景も。 【写真は共同】

 シーズン前、地区最下位どころか、シーズン100敗、メジャー最低勝率さえ予想されたマリナーズ。正直なところ、それに反論できる要素も少なかったのに、6月9日(現地時間、以下同)――シーズン63試合を終えた時点での勝敗は32勝31敗と、貯金さえある。仮にプレーオフに出場したら、万馬券どころか、史上最高配当が出るような話だろう。

 ここまでのシーズンを振り返れば、開幕から2連勝したものの、そこから7連敗。4月11、12日はブルージェイズに連勝したが、スウィープ(同一カード全勝)を狙った13日の試合は、6回に1点を勝ち越しながら、8回に一挙6点を奪われて逆転負け。あの日の試合後のムードはといえば、7連敗中の時よりも重く、選手らは背を丸めて肩を落とし、ため息をつきながら首を振った。昨年もマリナーズでプレーした選手らの様子をうかがうと、「今年もか――」。言葉にしないまでも、考えていることが表情から読み取れた。

 ところが、1日休みを挟んでのデトロイト、ボストン遠征(4月26日〜5月1日)で、5勝1敗と大きく勝ち越すと、チームは奇跡的に息を吹き返す。
 何かが変わったかな。こんな戦いができるのか、と思ったのが29日のレッドソックス戦。
 初回に2点を先制したものの、4回までに2対4と逆にリードを許すという、見慣れた展開。昨季までのマリナーズ、いや、シーズン前半のマリナーズならこれで終わりのはずだが、5回に1点を返すと、7回に2点を奪って逆転し、そのまま逃げ切ってしまったのである。

 翌日の試合も2対0で逃げ切ると、イチローがこんな話をした。
「今日なんかも、そりゃあ、しんどかった。昨日もそうだけど、なかなかこういう勝ち方って去年はなかった。あのままズルズル逆転されれば負けていた。今日なんかでも、必ず点取られて負けるパターンだったことを考えれば、違う形はできているのかなあ、とは思う」

 イチローもどこか半信半疑ではあるものの、何か手応えを得たかのような口ぶり。ホームに戻って昨季のア・リーグ覇者レンジャーズを迎えると、2勝1敗と勝ち越して、“違う形”が確かなものになりつつあった。

連敗! それでも立ち直る

 しかしながら、そこにすきが生まれたか、ホワイトソックスとの初戦を制した翌日から6連敗を喫する。そのうち、開幕から失敗なしの9セーブを挙げていたクローザーのブランドン・リーグが4敗。3度のサヨナラ負けも味わい、勢いに水をさすどころか、せっかくの種火にバケツで水をぶっかけた。

 この時点で借金「7」まで後退し、地区首位のエンゼルスとのゲーム差も5に広げると、夏の訪れを前に秋風が吹いたような錯覚に陥ったが、この6試合をあらためて振り返れば、マリナーズの戦い方は、さほど悪くない。
 10日のオリオールズ戦では、9回に追いついて延長に持ち込み、13回、いったんは勝ち越している。リリーフ陣がしのぎ、打線が応えた。リーグの不調がすべてだったのである。
 12日のオリオールズ戦も同じ。打線がなかなか得点できなかったが、ジェイソン・バルガスが9回まで無得点に抑えて延長へ。そしてこの試合でも、12回にマリナーズが先に勝ち越している。しかしその裏、またしてもリーグが捕まった。
 13日も、その時点ではア・リーグ最高勝率だったインディアンズを相手に4対2とリード。しかし9回、やはりリーグが、あとアウト1つ、というところまで持ち込みながら、サヨナラ2ランを浴びている。

 あえて“タラレバ”の話をすれば、この6試合は十分3勝3敗で乗り切れた。内容と結果は、決して伴っていなかった。

 それはすぐに結果として表れている。マリナーズは16日から6月5日までの20試合で15勝5敗と大きく勝ち越して、4月下旬の勢いがフロックでないことを証明してみせたのである。

 その間、強さを感じさせる印象深い試合が多かった。
 5月18、19日は、ジェレッド・ウィーバー、ダン・ハレンという、エンゼルス、いや、リーグを代表する2枚看板を相手に連勝。
 23日のツインズ戦では、7回までに3点差を付けられながら、8、9回で追いつくと、延長戦を制した。

 この時にはもう、イチローのチームに対する手応えが、確信に近いものになっていたよう。
「3点のリードで絶望的になる感じではない。そこはちょっと去年の感じとは違う」

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