どっちも想定外 “強い”マリナーズと“不調”のイチロー
好調を支えるもの
マリナーズの今後は「イチロー次第」という過去に例のないものに? 【写真は共同】
27日のヤンキース戦も5回までに3点をリードされていたのに、5回と6回にそれぞれ2点ずつを入れて逆転すると、そのまま終盤はデビッド・ポーリー、ジェイミー・ライト、リーグの継投で逃げ切ってしまった。
翌日の試合も序盤は劣勢。4回に逆転したものの、7回に追いつかれると、去年までならそのままズルズル行くケース。ところが、ここでもブルペンが踏ん張ると、延長12回には、その回からマウンドに上がったマリアノ・リベラを攻略してサヨナラ勝ちしてしまったのだ。
勢いを象徴したのが31日のオリオールズ戦だろう。2点を追う8回、2死からイチローの出塁を足掛りに一、二塁のチャンスを作ると、ジャスティン・スモークが3ランを放ち、鮮やかな逆転勝ちを収めたのである。
こうした勝ち方、一連の流れに対し、昨年まで常勝カージナルスにいたブレンダン・ライアンは「強いチームは、こういう戦い方ができるんだ」と話し、「去年とは違う」などと強調するが、その一方で、”出来過ぎ”との見方がないわけではない。全米メディアにも、放置されたまま。
特に地元ファンが冷めていて、客足が戻らない。スモークが逆転3ランを打った日など、観客はわずか1万1701人。セーフコ・フィールドの最低記録を更新してしまった。彼らはまだ、チームの力を本物と認めていない。
それは否定できないにしても、まぐれではこれだけ勝ちを重ねられまい。それなりに強さを証明する数字的な裏付けも存在する。
例えば、先発投手。今年は今のところ、フェリックス・ヘルナンデス、マイケル・ピネダ、バルガス、ダグ・フィスター、エリック・ビダードの5人が、きっちりとローテーションを守っている。しかも、5人の防御率は全員が4点以下。平均防御率3.27は、アスレチックス(3.17)に次いでア・リーグ2位である(6月8日現在)。
ブルペンも5月16日からの18試合では、わずかに失点5、防御率1.00という安定感だった。特にポーリーは、5月3日の試合で失点してから6月6日の試合で点を取られるまで、18イニング連続で無失点に抑えていた。防御率0.99(6月8日現在)は、ア・リーグのリリーフ陣の中でトップだ。
彼とセットアッパーのライトは開幕前、敗戦処理要員とさえ見られていて、ライトには今、陰りが見られるものの、今やポーリーは、オールスター出場さえ見えている。
気になるのは、やはりイチローの調子
2つほど、象徴的な試合があった。
5月27日のヤンキース戦では、得点圏で8打数無安打という相変わらずの数字だったが、4対3で勝利。挙げた4点はすべて内野ゴロによるものだった。今のチームはそういう点の取り方ができる。
6月3日のレイズ戦は、わずか4安打で7点。6四球が効いたが、ここ何年もリーグ最下位を争っていた四球の数が、6月8日の時点ではア・リーグ6位! 一時的にはトップに立ったこともあり、この劇的な変化が、ある意味打てない打線を陰で支えているといえよう。
さて、このまま行けるかどうかだが、心許ない部分は多い。
まず、リリーフ。ポーリーとライトで1年を乗り切れるのか? すでに触れたが、ライトにはもう開幕時の安定感はない。デビッド・アーズマが戻れば不安が1つ解消されるが、まだ復帰が見えない。
左翼のポジションも固定できず、少しは良くなってきたが、4番を打つ指名打者のジャック・カストで打線が切れるケースも多い。三塁のショーン・フィギンスも、低迷したままだ。
そして、何よりも心配なのは、イチロー。
5月は2割1分と低迷。6月に入り、およそ4年ぶりに3試合無安打ということもあった。5日の試合でひとまずそれを止め、今季初三塁打を放つなどしたが、7、8日はまた、音無しだった。6月の打率も1割弱だ。
「(自分が普段通りなら)もうちょっといいチームになれる。というか、勝てるチームだね」
イチローは、自虐的にそう話すものの、復調の気配がなかなか見えない。
このまま、チームが勢いに乗れるのかどうかはイチロー次第――そんな過去になかったことが、今の現実と言えそうだ。
<了>