打てないイチローと連鎖する珍現象=ヤンキース3連戦で見えたもの

木本大志

ヤンキース戦は14打数1安打……

ヤンキースとの第2戦目では、08年8月以来となる6打数無安打に終わった 【写真は共同】

 前回の短いホームスタンドで、ようやく暖かくなったと感じたシアトルだが、今回のヤンキース戦では低温が続いた。最終戦のデーゲームも厚い雲が上空を覆い、思ったほど気温が上がらない。まるで、寒の戻りのようだった。

 これは、夏の訪れの遅いシアトルにしても珍現象だが、ヤンキース3連戦は、それを象徴する展開ともなった。

 14打数1安打、1打点、1得点、1盗塁。

 これが、イチローのヤンキース3連戦の成績である。ここ5試合では、22打数1安打、打率は4分5厘。1割にも達していない。

 28日(現地時間、以下同)の2戦目は、なんと6打数無安打。過去のリストを添えたが、それまで1639試合に出場して8度目のこと。そもそも、6打席回ってくることが少ないが、きわめてまれな光景である。

03年7月22日 対ツインズ戦 6打数無安打、1得点、2三振
05年6月22日 対アスレチックス戦 6打数無安打、1得点、1三振
05年7月31日 対インディアンズ戦 6打数無安打
06年7月15日 対ブルージェイズ戦 6打数無安打、1四球、1三振
06年9月3日  対レイズ戦 6打数無安打、1盗塁
08年5月14日 対レンジャーズ戦 6打数無安打
08年8月13日 対エンゼルス戦 6打数無安打、1打点
11年5月28日 対ヤンキース戦 6打数無安打、1盗塁

 5月の月間打率も98打数20安打で、2割4厘まで下がっている。もちろんこれは5月の月間打率としては最低で、あと2試合残っているものの、すべての月間打率と比較しても、これまで最低だった06年8月の2割3分3厘を下回る可能性が高くなった。

 そんな久々の珍現象に、シアトルの地元メディアもどこか沸き立つ。明日には「イチロー・スランプ」の原稿を、新聞、ウェブ、ブログなどで目にしそうだ。

連鎖する珍現象

 グラウンド上でも、良くも悪くもこの3日間は、珍現象が連鎖反応を引き起こしていた。

 シリーズ初戦、マリナーズは4対3で勝ったが、内野ゴロの間に全得点を挙げるという珍しい形。決勝点となった4点目もイチローのショートゴロで、好機でタイムリーが出ないのはシーズン当初と変わらないが、得点できるようになったところに、いい意味でのチームの変化がうかがえる。

 そのチームの勝率はついに5割ともなった。首位の背中もすぐそこ。仮にマリナーズが6月1日の時点で首位に立っているとしたら、それは03年以来のことになる。その年のマリナーズは4月14日に地区首位に立つと、8月26日までそれを守った。

 イチローは言う。

「この時期の5割は久しぶりですからね。何年ぶりですかね。記憶にないぐらいですよね」

 やや余談だが、珍現象はそれにとどまらない。シリーズ2戦目には、中盤から終盤にかけて、4人ものファンがグラウンドに乱入したのである。そのうちの3人が“服を着ていた”。

 問題の1人は、一塁側のマリナーズのダグアウトの上から義経の八艘(はっそう)飛びのよろしく、ひらりとグラウンドに飛び降りると、帽子だけを身につけたままグラウンドを無邪気に駆け回っている。

 そのファンがジャンプするのを下から目撃したジャスティン・スモークは、「思わず首をすくめた」というが、仮に選手に接触していたら、どうなっていたことか。

「せっかくの好ゲームが台無しだ」と話したブレンダン・ライアンは、「マイクを持って、これ以上、邪魔をするなとアナウンスをしたかったぐらいだ」と翌朝も怒りが収まらない様子だった。

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