打てないイチローと連鎖する珍現象=ヤンキース3連戦で見えたもの

木本大志

勝利とともにチームは成長

不振が続くイチローだが、チームは好調。5割復帰で選手たちには自信が芽生えてきた 【写真は共同】

 ところでその日は、マリナーズが延長12回にマリアノ・リベラを打ち込んで今季4度目のサヨナラ勝ちを収めたが(それも珍しいと言えば珍しい)、試合後、ヤンキースのクラブハウスに行って、マリナーズとの違いを痛感させられた。負けたとはいえ、ヤンキースの選手は思っていること、考えていることを、いっさい表情に出さないのである。

 もちろんサヨナラ負け。それなりにショックはあるはずだが、打たれたリベラは淡々とメディアの取材に応え、デレック・ジーターらも、顔色一つ変えず、着替えて帰っていった。

 これがマリナーズだったら、がっくりとうなだれて多くが失望感を隠さないか、ダイニングにこもってしまって、メディアが引き上げるまでクラブハウスに出てこないところである。

 イチローは何年か前、マリナーズの場合、勝ち負けで雰囲気のギャップが激しいといったニュアンスのことを話したことがあるが、それは今も続く。

 おそらく、イチローが求めているとしたら、プロの集団を感じさせるあのヤンキースのクラブハウスの雰囲気ではないだろうか。

 ただ、5月13日の時点で7つもあった借金を2週間足らずで返した。伴って、選手に自信が芽生え始めたのも事実。27日と28日に2イニングずつ投げて、ヤンキース打線を無失点に抑えたデービッド・ポーリーらは、開幕当初と比べて顔つきが違う。

 イチローは、昨季の開幕前、「実績のないチームは、ある程度、結果が必要」と話したが、それを選手に置き換えても同じことで、ポーリーのようにある程度結果を出し始めたことで、確実に自信を持ち始めた選手がいる。チームは少しずつ成長もしているのである。

一方のイチローは?

 イチローに話を戻すが、エリック・ウェッジ監督は「気にはなっている」と話し、不振に対して懸念を口にしたものの、「彼はユニークなスタイルなので、私が(不振の)分析することは非情に難しい。彼は自分のことを誰よりも分かっている」と続け、イチローの打撃については、特にアドバイスを与えることはない、とのスタンスを示した。好打者のコーチは本人自身、という鉄則を監督は貫くようである。

 ただし、「シーズンはあと4カ月もある」とも言っており、近いうちに、休養を与えることを示唆。イチローの場合、休養というと、指名打者というケースが多いが、ひょっとした近いうちに、完全に休ませる――そんな含みを感じた。

 確かに、現在、シーズン最長タイの20連戦の3戦目が終わったところ。今週は今後、デーゲームとナイターがやや不規則に続くため、どこかで、ということは十分に考えられよう。

 この日の試合前、いつもなら試合開始2時間半ほど前から行う外野でのウオーミングアップをイチローは行わなかった。前日は、午後11時半に試合が終わった。蓄積された疲労、というよりは、そのせいではないかと推測できたが、少なくとも監督らは、一度休養を、という方向に傾きつつあるようである。

 現時点でイチローは、244試合連続出場を続けており、メジャーでは258試合のマット・ケンプ(ドジャース)に次いで2番目だが、それも一度、途切れることになるかもしれない。

 さて、ヤンキースに2勝1敗と勝ち越して、チームも5割復帰。ムードは決して悪くないのだが、イチローが蚊帳の外。珍しいこともあるものである。

<了>

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