アドマイヤムーン、引退花道を飾る有終V!=ジャパンカップ
一方、アタマ差の2着には馬場の真ん中をしぶとく伸びてきたオリビエ・ペリエ騎乗の4番人気ポップロック(牡6=角居厩舎)。断然の1番人気に支持されていた武豊騎乗のメイショウサムソン(牡4=高橋成厩舎)は外から激しく追い込んだものの3着に敗れた。また、64年ぶりの牝馬ダービー馬で2番人気の支持を集めたウオッカ(牝3=角居厩舎)は、道中最後方からメンバー最速の上がり脚(3F33秒6)を繰り出したが、1着から0秒2差の4着だった。
反撃に燃えていた岩田「どないかして結果を残してやろう」
「天皇賞は僕のふがいないレースで悔やまれたんで、どないかして結果を残してやろうと思っていました」
リベンジに燃える岩田が当初思っていた作戦は「メイショウサムソンの後ろから」。しかし、実際にゲートが開くと、思った以上の好スタートをアドマイヤムーンが見せ、道中のポジションは先行5番手の位置取り。逆にメイショウサムソンは5〜6馬身後ろの中団ポジションだった。
「ポップロックとコスモバルクが内から来た時にいっしょにガッと行ってしまって、下げようと思ったら馬が怒ってしまった。終始そんな感じで、息は入っていなかったんですけど、とにかく馬が強かったですね」
道中は折り合い完ぺきとまではいかなかったものの、スローペースになったために岩田が選択したこのポジションは大正解。4コーナーでも各馬が外へ進路を取る中、岩田は迷わずインに突っ込んだ。
「(外へ)出るに出れないレースだったんですが、みんなが内を拒んで外に行ったので、みんなの逆を行ってやろうと思いました。それが的中していいレースができましたね」
気合の直線早め先頭、ギリギリ踏ん張った
ただ、スタンドでレースを見守った松田博調教師は、積極的な岩田のレースに一抹の不安を抱いていた。
「抜け出すのが早すぎるかと思った。気性に難のある馬で、早く抜け出すとかわされてしまう馬だから」
1頭になるとソラを使ってしまう馬だけに、ゴールきっちりで差し切るのがアドマイヤムーンの理想の勝ちパターン。逆に、早い段階で先頭に立ってしまうのは負けパターンであるとも言える。
しかし岩田は迷うことなくステッキを振るい、もう天皇賞(秋)のような不利は御免とばかりの気合の早め抜け出し。いったんは後続を突き放した。が、外からはこれを目掛けてポップロック、メイショウサムソン、ウオッカが襲い掛かってくる。一完歩ごとに差が縮まっていく中、それでもアドマイヤムーンは耐えに耐え、ポップロックがアタマ差まで迫ってきたところがゴール。1着を死守した。
「馬の力を信じて乗りました。頭の下がる思いです」と岩田。松田博師も「勝つときはすべてうまくいくもの。よく最後までもってくれた」と愛馬をねぎらった。
有馬は出走せず、高橋代表「このまま送り出すのが我々の役目」
「2400メートルでギリギリのパフォーマンスを見せてくれて、これよりあと100メートルも伸びるわけですから、あえてそのような冒険はしたくない。ジャパンカップを勝ったインパクトを残したまま引退した方が、生産者やオーナーの方々に対するアドマイヤムーンという種馬の衝撃度が違ってきます。ですから、今まで良く頑張ってくれたと、このまま送り出すのが我々の役目だと思っています」
3月のドバイ国際競走GIドバイデューティーフリーを快勝した時に、世界1、2を争う大馬主であるドバイのシェイク・モハメドに見初められ、オファーされたトレードマネーが40億円。これは競走馬としてよりも、むしろ種牡馬としての価値を見越してつけられた値だ。
また、「2000メートルのスペシャリスト」と高橋代表が見ているように、アドマイヤムーンは必ずしも2400メートルがベスト距離ではない。しかし、天皇賞(秋)で敗れたことで、種牡馬的価値の面からもこのまま引退できない。そして「これは私の“勘ピューター”ですが、府中コースで、府中のパンパンの芝ならこなせるのでは」と、JC出走を決断した。
「関係者のみなさんは私の思惑、希望、そして意地を理解してくれ、馬も距離を克服してくれた。岩田君もこの距離の壁を、綿密な計算でギリギリもたせてくれました。厩舎関係者、岩田君にはなんとも言いようのない感謝の気持ちです」
高橋代表の“意地”と“勘ピューター”が実を結び、適距離ではない舞台、しかも世界が相手のジャパンカップでこれ以上ない成果を残す勝利。種牡馬としてさらに箔がついた今、わざわざリスクを犯すことなく、ここでの引退は当然のことかもしれない。
3月ドバイ、6月宝塚記念、そして11月JCと、国際GI3勝というまさに“世界レベル”の実績・インパクトを残し、今、アドマイヤムーンが静かにターフを去る。