マダックス、歴史の階段を上る“精密機械”

出村義和

今シーズン、出だし好調

史上9人目となる通算350勝にあと1勝と迫るマダックス 【 (C)Getty Images/AFLO】

 現役最多勝投手グレッグ・マダックス(パドレス)が史上9人目の通算350勝にあと1勝に迫った。4月14日に42歳の誕生日を迎えた超ベテランだが、衰えるどころか、ますます円熟味を感じさせる。
 今シーズンもここまで3試合に登板して負けなしの2勝をマーク。その内容も素晴らしく、18イニングを投げて防御率2.00。四球はわずか3個しか与えていない。その正確無比のコントロールから、“精密機械”と呼ばれているが、テンポのいい投球ぶりをみていると、投手のかがみと言いたくなる。しかも、史上最多のゴールドグラブ賞17回受賞のフィールディングは相変わらず軽快だ。
 スカイパーフェクTVで解説を務めた4月2日(現地時間)の対アストロズ戦では、5人の打者をピッチャーゴロに仕留め、いずれも見事なグラブさばきで刺した。ことしもスプリングトレーニング取材、帰国してからは実況解説を通して、すでに数多くの投手を見てきたが、最もエキサイティングな気分にさせてくれた投手はマダックスである。

信じるのは自分の目

 「彼がすごいのはコントロールだけではない。打者の打球方向をズバリと言い当ててしまうことだ。ある試合でピンチに立ったのでマウンドに駆け寄って状態を聞いたところ、『大丈夫、3球目でサードゴロに打ち取って見せる』と言うんだ。そして実際にそうなった」

 こう証言するのはブレーブスのボビー・コックス監督だ。これは彼の大好きな小話らしく、同じ話を2年連続スプリングトレーニングの取材で聞かされたことがある。同様の話は、一時期チームメートだったことのあるドジャースの斎藤隆からも聞いたことがある。
 
 「マダックスはベンチにいると、みんなと違う方向を見ているんですよね。彼だけが打球の飛びそうなところを見ていた」

 球団が用意するスカウティング・リポートはほとんど活用しない。信じるのは、あくまでも自分の目だという。マウンド上ではポーカーフェース。淡々と投げているのでおとなしそうな印象を与えるが、話をすると口調、鋭い視線から伝わる勝負師の迫力で圧倒される。

アートに近い投球術

 それだけに、周囲に与える影響も大きい。昨年の開幕前には、チームメートのジェイク・ピービーを食事に誘い、投手としての心構えを伝授したり、試合中でもクリス・ヤングなどの若手投手に様々なアドバイスをしている。ピービーが昨年、初のサイ・ヤング賞を受賞したことや、ヤングが自己ベストの防御率(3.12)をマークできたのも、マダックスの存在抜きには語ることができない。

 ファストボールのスピードは90マイル(約145キロ)にも達しない。しかし、無駄のないフォームから投げ込まれるツーシームや伝家の宝刀チェンジアップなどは、まるで生き物のように変化してストライクゾーンに入ってくる。一連の投球動作はアスリートの美というよりはアートに近いものを感じさせる。

 「どんなに速いボールを投げられても、ストライクにならなければ意味がない」

 中学生のときに出会ったコーチの信念を受け継いできたマダックスは、歴史の階段をまた一段上がろうとしている。

<了>
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著者プロフィール

スポーツジャーナリスト。長年ニューヨークを拠点にMLBの現場を取材。2005年8月にベースを日本に移し、雑誌、新聞などに執筆。著書に『英語で聞いてみるかベースボール』、『メジャーリーガーズ』他。06年から08年まで、「スカパー!MLBライブ」でワールドシリーズ現地中継を含め、約300試合を解説。09年6月からはJ SPORTSのMLB実況中継の解説を務めている

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