サントリーを復活Vに導いた沢木監督 「クールな指揮官」が選手に求めたもの

斉藤健仁

「過去最低成績」から全勝優勝へ

日本選手権優勝後のインタビューで笑顔を見せる沢木監督 【斉藤健仁】

 1月29日、日本選手権決勝が行われ、サントリーがパナソニックを15対10で下して4年ぶり7度目の優勝を飾った。サントリーはトップリーグに続き「2冠」を達成し、今季、17戦全勝で駆け抜けた。

 常勝軍団だったサントリーは昨季、トップリーグ9位と過去最低成績に低迷した。そんなチームを見事に復活させた指揮官こそ、OBの沢木敬介監督だった。

 沢木氏と言えば、選手時代は日本大4年時、故・平尾誠二監督が率いる日本代表入りし、サントリーでもSOやCTBとして活躍。2006年度、首のケガの影響で選手を引退したが、当時、サントリー監督だった清宮克幸監督(現ヤマハ発動機)の勧めで、コーチに就任、指導者としての道を歩み始めた。「僕のことをコーチに誘ってくれたのは清宮さん。今でも感謝しています」(沢木監督)

沢木監督「エディーはコーチの一番の見本」

現役時代はSO、CTBで日本代表としても活躍した 【写真:アフロ】

 ただ、外国人選手が「エディー・ジュニア」と呼ぶように、練習では笛を片手に「ブレイクダウン!」と叫び、試合前は選手たちを冷静に見渡す姿は、かつてサントリーも指揮した、元日本代表エディー・ジョーンズ監督(現イングランド代表監督)を彷彿とさせる。沢木氏は「真似をしようと思わないが、影響はありますね」と語る。

「選手として感じたエディーとコーチとして感じるエディーは全然、違いました。準備の意識が高くなりました。厳しかったですが、エディーはコーチの一番の見本。ブルズ、ワラタスなどに視察に行きましたが、一つ言えるのは、エディーは世界のトップクラスのマネジメントを行っていました」(沢木監督)

 かつて、一緒にプレーしたベテラン選手たちは、沢木監督のことを「敬介さん」と親しみを込めて呼び、「厳しさは変わらない」と声をそろえる。清宮時代、エディー時代のサントリーを支えて、2012年度はヘッドコーチとして大久保直弥監督(現・NTTコミュニケーションズFWコーチ)と二人三脚で、チームを「2冠」に導いた。

 6年間、サントリーでコーチを務めたが、2013年から「エディーの下で、一貫で指導していくなら」とジョーンズHCに請われる形で、U20日本代表の指揮官に就任。2014年にはU20日本代表を、1部(ジュニアワールドチャンピオンシップ)に昇格。さらに2014年の途中からはエディー・ジャパンのコーチの一人となり、ワールドカップで3勝も経験した。

「悪い習慣」を変えるために2年目の流を主将に

2年目の流(左)を主将にして、チームに変化をもたらした 【斉藤健仁】

 2015年度もシーズン途中からスタッフの一人として、サントリーに戻る形となったが、沢木氏は3年間、タイトルから遠ざかっていたチームを、一歩引いた形で見ていた。今季、監督になることはほぼ決まっていたこともあり、昨季は「何を変えないといけないかメモを取っていました」。

 2016年、監督に就任すると「サントリープライド」というスローガンを掲げ、ぬるま湯だったマインドを変えることから始めた。「練習から100%でやれと言っても、70〜80%ほどで、ふりをしている選手がいた。悪い習慣があった」。それを払拭する一つの手段として、「スペースを見極める能力もあるし、自分の意見を言えて、ハードトレーニングができる」と2年目のSH流大(ながれ・ゆたか)をキャプテンに抜擢した。

「代表とクラブの指導法は共通点もありますが違う部分もある」と沢木監督は、ジョーンズHCのようなトップダウンスタイルを取ることはなかった。「今季はトレーニングを厳しくやりましたが、やらされているのではなく、自分たちからやろうと思えるようにミーティングの機会をたくさん作りました」。優勝経験のない若い選手もいるため、対話を重ね、チームとして戦うことを重視した。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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