サントリーを復活Vに導いた沢木監督 「クールな指揮官」が選手に求めたもの
毎週、全選手と個人面談を行って課題を明確に
日本選手権決勝でパナソニックを破り、喜びを爆発させるサントリーの選手たち 【築田純】
さらに沢木監督はラグビーに関しても「3年前とあまり変わっていなかった」と吐露する。「ラグビーが進化し、ルールも変わっているのに、ボールキープするというラグビーをやっていた」と感じて、「インターナショナルスタンダード」というスローガンも同時に掲げた。
グラウンドで立っている時間を増やすために、倒れてから起き上がるスピードの「2秒以内」を目標に、試合後は平均値を張り出す。7月の菅平合宿には元日本代表のスクラムコーチだったマルク・ダルマゾ(現トゥーロンのFWコーチ)を招聘。フィットネストレーニングは、ただ走るのではなく、様々なボールゲームを取り入れるなど、細かいところまで変えていった。
「シェイプは終わると思っていました」
厳しい視線で練習を見つめる沢木監督 【斉藤健仁】
「僕はエディーの前から終わると思っていました。エディー・ジャパンも最後の年は蹴っていたし、(ボールをキープする)シェイプという感覚はなかった。日本代表にいる頃から、今のラグビーをずっと考えていた」(沢木監督)
ただ「180度違うラグビーをしているわけではない」という沢木監督は、「アタッキングラグビー」というチームのカルチャーはそのままに「スペースを攻める」ラグビーを指向。特にBKは「スペースを攻める」攻撃をする準備段階として、前を見る習慣をつけてスペースを共有するため、一度、ボールを前に投げていいルールを加えた練習も行っていたという。
ただ相手のディフェンスのセットが遅ければ、攻撃を順目に連続させ、外にスペースがあるのであれば、ボールを大きく動かしたり、積極的にキックでスペースを攻めたりとバリエーションは増えた印象が強い。
「ボールを下げないことは意識していますし、アライメント(アタック時のラインの形成や深さ)は大事にしている。相手ありきで、どう崩すか。シェイプやポッドという一つの形にこだわるのではなく、アタックのオプションを相手の状況によって使い分けるイメージ。日本代表のコーチとして、様々な国のラグビーを見たことや、多くのコーチと会う機会があったことが大きい。僕の指導方法のオプションもいろいろ増えました」(沢木監督)
9月のパナソニック戦「あの勝利は大きかった」
トップリーグのMVP、トライ王に輝いた中づる(雨冠に隹・鳥の順)隆彰 【築田純】
今季、沢木監督が成長を感じた試合があった。それは、昨年9月17日のトップリーグ第4節のパナソニック戦で、昨年度の王者に45対15で快勝。実は、サントリーは、開幕節は近鉄に1点差、3節はリコーに6点差でかろうじて勝利するなど、最初から調子が良かったわけではなかった。
「相手はチャンピオンチームだったし、選手たちは自分たちのラグビースタイルを信じながらも少し迷っていた部分があった。パナソニック戦で、自分たちのラグビーに全員がコミットできた。あの勝利は大きかった」(沢木監督)
オフにはジョーンズHCを訪ねる予定
胴上げされる沢木監督。優勝にも「改善ポイントはあるはず」と満足はしていない 【築田純】
「結果が出ているということは、うまくいっていたと思いますが、改善ポイントはあるはず」と沢木監督は、決して満足はしない。オフも、1週間ほどイングランドに渡り、“師匠”であるジョーンズHCが指揮するイングランド代表に帯同し、さらなる研鑽を積む。今季のサントリーの「2冠」は、選手たちの努力ももちろんだが、指揮官が誰よりもハードワークだったからこそのたまものだった。