サントリーを復活Vに導いた沢木監督 「クールな指揮官」が選手に求めたもの

斉藤健仁

毎週、全選手と個人面談を行って課題を明確に

日本選手権決勝でパナソニックを破り、喜びを爆発させるサントリーの選手たち 【築田純】

 かつてのジョーンズHCよろしく、沢木監督の朝は早い。朝4時半には起床し、6時前にはクラブハウスにいて、帰るのは夜10時くらい。かつては営業も経験した沢木監督が、選手たちにラグビー以外の話を積極的に話しかける姿があったという。U20日本代表を指揮した経験も大きかったはずだ。毎週、全選手に対して1対1の個人面談を行い、コンディションを確認しつつ、課題を明確にした。

 さらに沢木監督はラグビーに関しても「3年前とあまり変わっていなかった」と吐露する。「ラグビーが進化し、ルールも変わっているのに、ボールキープするというラグビーをやっていた」と感じて、「インターナショナルスタンダード」というスローガンも同時に掲げた。

 グラウンドで立っている時間を増やすために、倒れてから起き上がるスピードの「2秒以内」を目標に、試合後は平均値を張り出す。7月の菅平合宿には元日本代表のスクラムコーチだったマルク・ダルマゾ(現トゥーロンのFWコーチ)を招聘。フィットネストレーニングは、ただ走るのではなく、様々なボールゲームを取り入れるなど、細かいところまで変えていった。

「シェイプは終わると思っていました」

厳しい視線で練習を見つめる沢木監督 【斉藤健仁】

 サントリーと言えば、日本代表同様に、ジョーンズ氏が考案した、ボールキープが前提で、FWとBK一体となって陣形を作る「アタック・シェイプ」という戦術が代名詞だった。ただ、ジョーンズ氏自身も「シェイプは終わった」とキッパリ言っているように、ディフェンスが進化したこともあり、ボールキープする戦術で戦うことは難しくなっていた。

「僕はエディーの前から終わると思っていました。エディー・ジャパンも最後の年は蹴っていたし、(ボールをキープする)シェイプという感覚はなかった。日本代表にいる頃から、今のラグビーをずっと考えていた」(沢木監督)

 ただ「180度違うラグビーをしているわけではない」という沢木監督は、「アタッキングラグビー」というチームのカルチャーはそのままに「スペースを攻める」ラグビーを指向。特にBKは「スペースを攻める」攻撃をする準備段階として、前を見る習慣をつけてスペースを共有するため、一度、ボールを前に投げていいルールを加えた練習も行っていたという。

 ただ相手のディフェンスのセットが遅ければ、攻撃を順目に連続させ、外にスペースがあるのであれば、ボールを大きく動かしたり、積極的にキックでスペースを攻めたりとバリエーションは増えた印象が強い。
 
「ボールを下げないことは意識していますし、アライメント(アタック時のラインの形成や深さ)は大事にしている。相手ありきで、どう崩すか。シェイプやポッドという一つの形にこだわるのではなく、アタックのオプションを相手の状況によって使い分けるイメージ。日本代表のコーチとして、様々な国のラグビーを見たことや、多くのコーチと会う機会があったことが大きい。僕の指導方法のオプションもいろいろ増えました」(沢木監督)

9月のパナソニック戦「あの勝利は大きかった」

トップリーグのMVP、トライ王に輝いた中づる(雨冠に隹・鳥の順)隆彰 【築田純】

 また、沢木監督は春から、積極的にニュージーランドやオーストラリアといった強豪国の試合を選手に見せて、ポジションごとに課題を出すなどして選手たちの「ナレッジ(ラグビー理解度)」を高めることにも注力した。「自分たちのラグビーをやることは当たり前で、選手たちのナレッジが高まれば、より細かいところまで踏み込んでいける」。さらに、試合前には、「必死でやれ」というような抽象的な言葉ではなく、「出だしの3歩」など、選手たちが行動に移しやすいように、シンプルかつ具体的な言葉を心がけた。

 今季、沢木監督が成長を感じた試合があった。それは、昨年9月17日のトップリーグ第4節のパナソニック戦で、昨年度の王者に45対15で快勝。実は、サントリーは、開幕節は近鉄に1点差、3節はリコーに6点差でかろうじて勝利するなど、最初から調子が良かったわけではなかった。

「相手はチャンピオンチームだったし、選手たちは自分たちのラグビースタイルを信じながらも少し迷っていた部分があった。パナソニック戦で、自分たちのラグビーに全員がコミットできた。あの勝利は大きかった」(沢木監督)

オフにはジョーンズHCを訪ねる予定

胴上げされる沢木監督。優勝にも「改善ポイントはあるはず」と満足はしていない 【築田純】

 この勝利から勢いに乗ったサントリーは、12月24日に行われた清宮監督率いるヤマハ発動機との全勝対決も41対24で制し、トップリーグを全勝で優勝。さらに日本選手権でも優勝し、無敗のままシーズンを終えた。その要因を沢木監督は「(選手やコーチ陣が)ハードワークしたから」と胸を張った。

「結果が出ているということは、うまくいっていたと思いますが、改善ポイントはあるはず」と沢木監督は、決して満足はしない。オフも、1週間ほどイングランドに渡り、“師匠”であるジョーンズHCが指揮するイングランド代表に帯同し、さらなる研鑽を積む。今季のサントリーの「2冠」は、選手たちの努力ももちろんだが、指揮官が誰よりもハードワークだったからこそのたまものだった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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