清水JYの3冠を実現した「食・技・体」 中学年代で取り組んだ未来への投資
清水がジュニアユース年代の3冠を達成
清水エスパルスジュニアユースは高円宮杯全日本ユースも制し、ジュニアユース年代の3冠を達成した 【飯竹友彦】
この大会、特に印象的だったのは決勝の後半20分、劣勢の中で清水のキャプテンの川本梨誉が敵陣までドリブルで仕掛けたシーンだ。DF2人に囲まれながら見せた重心の低い安定感のある突破は圧巻の一言。そのプレーに象徴されるように、他の選手たちも各々が局面で圧倒的なフィジカルと技術、勝負強さを発揮した清水エスパルスジュニアユースが、16年のタイトルを総なめにした。しかし、岩下潤監督によれば「1年生のころは静岡県の公式戦でも負けている」というレベルからのスタートだった。ではなぜ、そのチームが3冠という偉業をなしえたのだろうか。
いくつかの要因はあるが、2年ほど前からチームで力を入れ始めた、ある取り組みを紹介したい。まず基礎となるのが姿勢に対する取り組みだ。これは、15年3月に理学療法士(Physical Therapist/PT)として招かれた齋藤佳久の存在が大きい。
前任者がトップチームに招集されたため、育成部門に携わることになった齋藤PTは、選手たちの姿勢や身体の動きを見て、「これが本当にプロを目指している集団なのだろうか?」とショックを受けたという。
また、けがをした選手のリハビリに取り組む意識の低さなども気になったため、チームに加入して2週間ほどしたときのスタッフミーティングで素直にそのことを伝えると、その場にいた掛川誠GKコーチはその言葉にハッとさせられたという。他のスタッフたちも同様で、「ならばすぐにやろう」という方向で育成部全体が動き出した。
正しい姿勢への意識を選手たちに植え付ける
正しい姿勢作りの意識をチームに植え付けた理学療法士の齋藤佳久(右端) 【飯竹友彦】
そこで齋藤PTはコーチ陣にも正しい姿勢の大切さを理解してもらうために、子供たちの映像を見せるなどして現状と課題点をレクチャーした。当時、最終学年を預かっていたU−15の久保山由清監督(現トップチームコーチ)は、個の能力アップのためならばと納得し、齋藤PTの意見を受け入れたのだ。
「正直なことを言えば、姿勢を正すことがサッカーの強化につながるのか、懐疑的な人もいたのではないかと思います。それでも、良いものは何でも取り入れようという意識や向上心がスタッフにあったのが良かったです」と、齋藤PTは当時を振り返り苦笑いを見せる。
こうして、本格的に姿勢作りへ着手した齋藤PTは、次の年代の2年生(16年に3冠を達成する年代)をあらためて見て、再びショックを受ける。身長もそんなに大きくない上に、学校の体力テストでは平均以下、握力やボール投げなど上半身の筋力測定も平均以下の選手がいる。「これで本当に大丈夫か?」という不安が頭をよぎった。だが、齋藤PTは時間をかけて、地道に正しい姿勢への意識を選手たちに植え付けていった。