清水JYの3冠を実現した「食・技・体」 中学年代で取り組んだ未来への投資
練習後の食事サポートへの取り組み
選手たちは週に2回、東海大学野球部の施設で「株式会社静岡富士サービス」から食事提供を受けている 【飯竹友彦】
それは公式戦の試合でも同じだった。冬の高円宮杯を迎える前までは、常にベンチから「いまどんな姿勢だ?」「(骨盤が)後傾してしないか?」といった身体の状態や姿勢に対する指示が飛んだ(こんなチームは他には滅多に見られないと思う)。また、ハーフタイムに岩下監督が指示をしている最中も、選手たちには椅子に浅く腰をかけ、背筋を伸ばした状態を保つよう促した。どんなときでも正しい姿勢を保つ――それを、とにかく徹底したのだ。
こうした齋藤PTの姿勢への取り組みと同時に、15年の夏ごろからは食育にも手を付けた。これが第二の取り組みとなる。正しい姿勢も大事だが、その身体を作るために必要な栄養、食事にも目を向けた。
トップチームもサポートしている「株式会社いでぼく」からは、選手たちが毎日飲む牛乳を下部組織にも提供してもらっているが、練習後にしっかり食事を摂ることができないだろうかと、提供先を探した。すると隣接する東海大学野球部の施設で、「株式会社静岡富士サービス」から週に2度食事を提供してもらうことが決まる。
中学生年代は最も身体が成長する時期であり、練習後のゴールデンタイムに必要な食事ができることは大きなメリットとなる。反面、帰宅が遅くなることや食事にかかる費用などデメリットもあった。だが、その全てを保護者に伝えて了承を得た。そうして食への取り組みが始まると、選手たちの意識も日に日に変化していく。家では両親の協力もあり、食べる量、必要な栄養が提供されることで、クラブで見える範囲だけではなく、外でのサポート体勢も整えられていった。
岩下監督による気付きの指導
「中学3年生で出せる、今できることの積み重ねはやってこられた」と岩下監督 【飯竹友彦】
「まず確実にケツが大きくなった」と指揮官が言うように、県レベルで負けていた1年生チームの体つきが目に見えて変わった。外見だけではない。「単にフィジカルが強くなったというより、相手に寄せられてもボールを隠せるようになり、軸がブレずにボールを扱えるようになってプレーの選択肢が広がった。食事と姿勢がピッチの中でサッカーにつなげられた」と岩下監督が言えば、「元々ジュニアユースに選ばれた選手。テクニックに秀でた子が多かった。そこに身体的なベースができてくることで、良い方向に向かったと思う」と齋藤PTも分析する。
鍛えられた体のベースをもとに、技術をしっかり表現する術(すべ)を選手たちに気付かせたのが岩下監督の「待つ姿勢」だ。ターンの仕方やワンツーのやり方などは、教え込まないとテクニックが増えないこともある。そこはさじ加減だとはいうものの、頭から教え込むのではなく、選手に選択肢を与えて気が付かせることで引き出しを増やしていった。
前述したように、高円宮杯全日本ユース(U−15)決勝で川本は自分よりも体格のいい相手DF2人に囲まれながら、その間をかき分けて前への推進力を見せた。「身体能力だけでなく、前にボールを持っていく技術が伴っている。それが本人たちには分かっている」(岩下監督)。そのため、試合の局面において自分自身で答えを出せる選手になった。それは日々の練習で養われたのだ。
こうして、「心・技・体」ならぬ「食・技・体」の3つが合わさって、清水エスパルスジュニアユースの3冠は達成された。しかし、この3冠は狙ったものではない。将来プロとして活躍するため、日本のトップ、さらに世界でも通用する選手を育てるにはどうしたらいいのか。そのためには何をしなければならないのか――。逆算をして、さまざまなことにトライした結果にすぎない。時間のかかる正しい姿勢の習得、食事、気付きの指導も、全てが未来のためにあった。
「中学3年生で出せる、今できることの積み重ねはやってこられたと思います。姿勢や食事のことも含め、やれることを上乗せできているので、上げ幅を広げていけたという3年間でした。あとは、彼らがこの先しっかり肉付けしていってくれたらと思います」
史上2クラブ目となるジュニアユース年代の3冠を獲得した岩下監督だが、その言葉は謙虚だった。