今治のターニングポイントとなった敗戦 岡田武史オーナー兼CMOインタビュー前編

宇都宮徹壱

リラックスした表情で今季のFC今治の戦いを振り返る岡田武史オーナー兼CMO 【宇都宮徹壱】

 FC今治の岡田武史オーナー兼CMO(チーフ・メソッド・オフィサー)にインタビュー取材したのは、地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)を見事に優勝してから5日後の12月2日。相変わらず多忙を極める岡田オーナーであったが、来季のJFL昇格が決まったこともあり、その表情は大会期間中から一変して実に穏やかなものになっていた。

 地域CLは、1次ラウンドを勝ち抜いた4チームが決勝ラウンドを戦い、上位2チームにJFL昇格の権利が与えられる。1次ラウンドも決勝ラウンドも、いずれも3日間連続で試合が行われるハードスケジュールである。FC今治は1次ラウンドで2位に終わったものの、他グループの2位チームを得失点差で大きく上回ったため、ワイルドカードで千葉で行われた決勝ラウンドに進出。ここでしっかりチーム状態を立て直し、決勝ラウンドでは3戦全勝で見事に地域CL優勝とJFL昇格を勝ち取ったのである。

 会長就任から2シーズン目となる2016年。クラブのこの1年を振り返るにあたり、最大の山場となったのがJFL昇格を懸けた地域CLであったことに異論を挟む者はいないだろう。今回の岡田オーナー兼CMOへのインタビューでは、前後編の2回にわたり、FC今治がいかにして昇格への重い扉をこじ開けたのかを明らかにする。前編では、今季の四国リーグから地域CL1次ラウンドまでを振り返ってもらった。

JFL昇格の余韻に浸ることができない理由

ライバルの高知ユナイテッドSCには2ポイント差で四国リーグ2連覇を達成 【宇都宮徹壱】

――JFL昇格が決まって約1週間が経過しました。ホームタウンの今治市は盛り上がっていますか?

 やはり地元はすごいですね。地域CLが終わって2日後に今治に戻ったんだけど、昇格記念Tシャツは1日で売り切れたみたいだし、街中では皆さんから「おめでとうございます」って声をかけられるし。それほどFC今治にのめり込んでない一般の人が、ものすごく反応してくれているのがうれしいですね。

――サッカー関係者からのリアクションはいかがでしょうか?

 まぁ、止まらないぐらいメールが来たよね。大げさではなく、6年前のワールドカップ(W杯)で勝った時よりも来ましたよ。

――それはすごいですね。一方で、すでにチームは来季に向けた動きを見せています。公式サイトでは、今季限りで14名の選手が退団することが発表され、すでにセレクションも始まっているようですが。

 地域CLの決勝ラウンドが11月末なので、来季の編成に向けてのんびりできないんですよね。Jのクラブなんかだと、10月の終わりくらいから来季に向けての編成を始めていて、12月に入るともう終わっているわけですよ。もちろん、われわれも準備は進めていたんだけど、昇格を決める前に選手に通達するとゴタゴタしてしまうので、地域CLが終わるまで控えていたんです。それで昇格が決まった翌日に面接をして、契約満了の選手にはその旨を伝えました。もっとも新加入の選手については、JFLに上がれるかどうかで変わってくる話なので、まさに今からという感じですね。

――昇格の喜びに浸る余韻もないまま、すぐに来季に向けて気持ちを切り替える必要があったと。

 そうですね。編成だけでなくてスポンサーさんについても、この時期に決めないといけないし、方針発表会までにユニホームを間に合わせないといけないから、本当なら11月末がリミットなのを今週まで待ってもらっています。今日もずっとスポンサーさん各社に電話していましたね。まさに今が追い込みですよ。

「どのタイミングでメソッドから解き放つべきか」

天皇杯1回戦のカマタマーレ讃岐戦ではセットプレーからの1失点に沈んだ 【宇都宮徹壱】

――さっそく今季のFC今治の戦いを振り返ってみたいと思います。今季の四国リーグは、圧倒的な強さで連覇を達成。しかも、相手に攻撃する時間を与えないポゼッションサッカーを展開できていました。吉武博文監督の目指すサッカーがかなりできていたと思うのですが?

 守備の時間をできるだけ少なくして、ボールを奪われてもすぐに取り返すということを、われわれはメソッドの中心としてやってきています。四国リーグではできていたんだけれど、「攻撃している間、ずっとボールを持っているだけでいいのか」という課題もあった。そこはこの1年、苦労してきたところでしたね。それと、試合に勝つだけではお客さんはまた観に来てくれない。「よし、次もまた観に来よう!」と思っていただけるような感動を与えることが、僕らにとっての大きなテーマでしたから。そこの部分は監督も意識してやってくれていましたね。

――結局リーグ戦では、悪天候で順延となった高知ユナイテッドSC戦(10月9日)には敗れたものの、四国リーグ連覇を達成。ただし天皇杯の1回戦(8月28日)では、カマタマーレ讃岐に0−1で敗れています。格上相手ではありましたが、決して勝てない相手ではなかったとも感じています。岡田さんのお考えはいかがでしょうか。

 僕も十分に勝てる相手だったと思います。あの試合では守備も非常に良かったですしね。ただし、ボールを持ったら勇気を持ってチャレンジしなきゃいけない場面で、あまりにもJ(リーグのチーム)をリスペクトしすぎた。そういう意味で、自分の中ではそんなにいい試合だとは思っていません。

――聞くところによると、讃岐との試合後に選手の間で「メソッドにこだわってばかりではいけないのではないか」という意見があったようです。ご存じでしたか?

 いや、知らないけれどそれは当たり前の話ですよ。「メソッドではどうするんだっけ」なんて考えながらプレーしているようではサッカーではない。サッカーという競技は、ものすごく単純に言えば「ボールを奪って、ゴールを目指す」、それだけなんですよね。だからこの1年、どこのタイミングでメソッドから解き放つべきか、ということは吉武とも話していました。

――岡田さんと吉武さんの間では、シーズンを通しての「解き放つタイミング」というものは、ある程度は共通認識として持っていたのでしょうか?

 シーズンが始まる前は分からないし、ある程度はパターン練習をする必要もあるけれど、試合を見ながら「そろそろ解き放ったほうがいいかもしれないね」というような話はしていましたよ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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