決勝ラウンドに不安を残したFC今治 三重戦での敗因は「プランB」の欠如

宇都宮徹壱

決勝ラウンド進出を果たした今治だったが

初出場の三重にストロングポイントを消され、0−3で敗れた今治。敗因は何だったのか? 【宇都宮徹壱】

「非常に残念な結果。試合前、選手は知らなかったんですけれど、私自身は決勝ラウンドに(ほぼ)行けるというのを知って試合に臨みました。でも負けるために試合をするのでなく、当然Aグループの1位を取ると。でも0−3というのは完敗でした」

 FC今治の指揮官、吉武博文監督は敗戦の悔しさを押し殺したような表情で、こう語った。JFL昇格を懸けた、全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)2016の1次ラウンド最終戦。2試合を終えた時点で今治は勝ち点6、得失点差はなんと+11にまで積み上げて首位に立っていた。

 13日に対戦したヴィアティン三重(全社枠/東海)は、同勝ち点で得失点差は+8。普通のリーグ戦であれば、今治は引き分けでもグループを1位抜けできるのだが、この地域CLでは同点の場合、延長戦なしのPK戦で決着をつけるという独自のレギュレーションがある(PK戦勝者には勝ち点2、敗者には1が与えられる)。よって今治がこのグループを1位でフィニッシュするには、勝ち点2以上を積み重ねる必要があった。

 昨年まで「地域決勝」もしくは「地決」の名で親しまれてきた全国地域リーグ決勝大会は、第40回大会を迎える今年から名称が地域CLに変わった。とはいえ、レギュレーションはこれまでと同じ。全国9つの地域リーグの優勝チームに、全社(全国社会人サッカー選手権大会)を勝ち抜いた3チーム(全社枠)、合計12チームが3つのグループに分かれて1次ラウンドを戦い、各グループの1位と最も成績の良い2位(ワイルドカード)が、25〜27日に千葉県市原市で開催される決勝ラウンドに進出することができる。

 今治対三重の試合が行われたのは、最終日の第2試合。実は各グループの1位と2位は、10時45分キックオフの第1試合ですでに決まっていた。他のグループには、勝ち点7に到達した2位チームはなかったため、得失点差でアドバンテージがある今治は、かなりリラックスした状態でこの三重戦に臨むこととなった。しかし前半37分と39分に、いずれもドリブルで崩されてクロスから岩崎晃也と寺尾俊祐に相次いでゴールを決められ、43分にはCKから岩崎が頭で決めて3点目。これで勝負は決した。今治はワイルドカードで決勝ラウンド進出を決めたものの、吉武監督も選手も、そして岡田武史会長兼CMO(チーフ・メソッド・オフィサー)も、心中穏やかではなかったはずである。

初日で明らかになった2強2弱の構図

北海道戦で3点目を決めた桑島良汰(青)。続く広島戦でも印象的な2ゴールを挙げている。 【宇都宮徹壱】

 あらためて、この1次ラウンドでの今治の戦いを振り返ってみよう。Aグループの会場は、愛媛県の西条市ひうち陸上競技。今治からは車で1時間ほどの距離にあるが、西条は同じ東予地方なので「準ホーム」といってよい環境であった。また今治は、くじ運にも恵まれた。初戦は北海道リーグを制したノルブリッツ北海道。12年大会では決勝ラウンドに進出して周囲を驚かせたが、その後は低迷期が続いて今回は久々の出場。残るSRC広島(中国)と三重については、いずれも地域CL初出場であり、経験値という点では今治に一日の長があった。

 11日の北海道戦、今治は11分に相手DFの自陣ペナルティーエリアでのミスを突いて、長尾善公が左足で難なく決めて先制。32分には、佐保昂兵衛の右からのクロスを再び長尾が決めて追加点を挙げる。後半4分には、片岡爽の折り返しに桑島良汰がヘディングで決めて3点目をゲット。しかしここから、選手たちの間に貪欲さが目に見えて失われてゆく。決定機は何度も作るものの、シュートはことごとく枠外へ。42分に得たPKも、佐保が大きく外してしまった。後半は17本ものシュートを放ちながら、今治のゴールは結局1点にとどまる。試合後、吉武監督は渋い表情で初戦をこう総括した。

「誰が(シュートを)入れた、外したではなく、チームのムードとして『楽勝』というのは甘いと思う。取れるときに取らないと。GKとの1対1で外すことが分かっていたら、もう1人走るだけで点は入ると思うし、もう1人飛び込んで押し込むだけでも入っている。でも、そこで1対1で勝負するというのはどうなのか? 勝負の厳しさというところで、自分では(今日の試合内容に)不満に思っています」

 なお、1次ラウンド初日のもう1試合では、三重が広島に6−0で圧勝。教員チームをルーツとする広島は、このグループで最も情報が少ないチームであったが、フタを開けてみると北海道以上に脆弱なアマチュアチームであった。いずれにせよ、Aグループの2強2弱の構図は初日ではっきりした。他のグループの強豪たちが、勝ち点3を勝ち取るために死に物狂いで戦う中、Aグループに関しては少なくとも2日目までは無風の状態が続くことは、この時点で容易に予想することができたのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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