今治のターニングポイントとなった敗戦 岡田武史オーナー兼CMOインタビュー前編

宇都宮徹壱

「ラッキーな組み合わせだった」1次ラウンド

地域CL1次ラウンドは1戦目と2戦目のゴールラッシュで楽勝ムードが漂った 【宇都宮徹壱】

――四国リーグを優勝してから、地元の愛媛県で全社(全国社会人サッカー選手権大会)がありました。5日間連続で行われるハードなトーナメント大会ですが、その後の地域CLの戦いを考えるのであれば「3試合はやりたい」という目標はあったと思います。ところが2回戦でジョイフル本田つくばFCに0−0の末PK戦で敗れてしまいました。

 あれは想定外でしたね。でも「あ、なるほどな。あれだけがっちりブロック作って守られたら、世界中の強豪クラブが苦労するんだから、ウチだって当然苦労するんだな」と思いましたね(笑)。岡田メソッドは「速くパスを回して相手の空いているところを見つける」というのが前提。でも、あれだけがっちり守られると、どんなにパスを回しても簡単には相手の穴は見つからない。吉武もいろいろ工夫してやってくれていたんだけど、ああいう場面になるとセットプレーで何とかするしかないと思ったね。

――ただセットプレーに活路を見いだすにしても、今治のフィールドプレーヤーには高さがあって空中戦に強い選手がいないですよね。あえて高さよりも俊敏性のある選手を選んでいたんでしょうか?

 いやいや、本当は高さのある選手を獲りたかったですよ。結局ダメで、集めてみたら小さい選手ばっかりで。(田中マルクス)闘莉王とかいてくれたらよかったんだけど(笑)。

――いずれにせよ、昨年に続いて全社は2回戦で敗退して、地域CLに挑むことになりました。1次ラウンドで同組になったのは、ノルブリッツ北海道、SRC広島、そしてヴィアティン三重。スカウティング的には「1位で抜けられる」という見通しだったんでしょうか?

 そうですね。三重が少しやるというのは聞いていたけれど、「そんなに抜群ではない」という話は聞いていた。特に広島なんて(中国リーグで)優勝してから、ほとんど試合もできていなくて、週2回くらい集まって練習するくらいだと。だからウチにとっては、ものすごくラッキーな組み合わせだったよね。

――実際、初戦の北海道には3−0、広島には8−0でいずれも本来のスタイルを発揮して相手を圧倒しました。おそらく選手も「このまま自分たちのサッカーを貫けば、今年は抜けられる」という思いが芽生えていたんじゃないでしょうか。

 それはそうでしょう。俺自身、このまま行けると思ったもん。「ヴィアティン? 大丈夫でしょう」みたいな感じで3試合目に臨んだら……。

――あっと驚く0−3ですよ!

 立ち上がりの段階で、ボールに詰める甘さとか、取られてからの切り替えの遅さとかは気になっていました。気迫が感じられない。相手はやはりブロックを作ってくるんだけれど、「俺たちうまいから、そのうち点が入るだろう」という慢心があったんだろうね。そうしたら10分間で立て続けに3点を入れられて。だからハーフタイムで「お前ら、いい加減にしろ!」と怒鳴ったんだよ。それで後半、多少は球際に行くようになったけれど……。あれはやっぱり、負けるべくして負けた試合だったね。

「いい教訓」になった第3戦での敗戦

ヴィアティン三重戦ではまさかの3失点。指揮官の吉武博文監督もこの表情 【宇都宮徹壱】

――今治の戦術とスタイルは明快で洗練されているがゆえに、非常に研究されやすいし対策も立てやすいという弱点があったと思っています。あの試合で三重が実践していたのは、両ワイドの選手をフリーにさせない、フロントボランチの侵入を止める、バイタルエリアでボールを奪ってショートカウンター、そして自分たちのバランスを崩さない、という対策を徹底させていました。幸い、今治は得失点でかなりのアドバンテージがあったので、ワイルドカードで決勝ラウンドに進出することになりました。それでも、岡田さんも吉武監督も0−3という結果をかなり重く受け止めていたのでは?

 もちろん危機感を抱きました。やっぱり相手も必死で研究して、対策を立ててくるから、簡単にはいかないんだなと。ただ、あの敗戦は、すごくいい教訓になりましたよね。選手はもちろん、俺や吉武にとってもね。あんないい加減な失点をしているようでは、絶対に地域CLを勝ち抜けないわけですよ。

――確かに、1次ラウンド3戦目の結果はショッキングなものでしたが、あそこで三重に当たったのはラッキーだったとも思っています。グループの2強2弱が明らかで、お互いに連勝して得失点でも優位な立場で当たったわけですから。逆に初戦や第2戦に三重と当って0−3だったら、チームを立て直すのは非常に難しかったと思います。

 あの大会を勝ち抜いた経験のあるやつに聞くと、みんな「もう二度とやりたくない」って言いますよね。じゃあ、勝因は何だったのかと聞くと「運だ」と。もう一度やって、また勝ち抜けるとは思えないと言うわけですよ。戦術ではなく、メンタルやフィジカルコンディションですべてが決まると。本当は、そういう大会というのは(レギュレーションを)変えないと日本サッカーのためにならないと僕は思っている。

 ただそうはいっても、われわれはここを超えなければならないし、そのために耐えなければならない。これはよく言うんだけど、何かを成し遂げるには「能力×情熱×考え方」だと。能力は分かりますよね。情熱というのは、絶対に負けないという強い意思。それプラス「そこで人生を懸けられるかどうか」という考え方なんですよ。そうした考え方というのは、とことん追い込まれた時にこそ芽生えると思っている。だからあの1次ラウンドは、まさにそういうものが芽生えるタイミングだったと思っています。

(後編は12月21日に掲載)

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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