今治のターニングポイントとなった敗戦 岡田武史オーナー兼CMOインタビュー前編
「ラッキーな組み合わせだった」1次ラウンド
地域CL1次ラウンドは1戦目と2戦目のゴールラッシュで楽勝ムードが漂った 【宇都宮徹壱】
あれは想定外でしたね。でも「あ、なるほどな。あれだけがっちりブロック作って守られたら、世界中の強豪クラブが苦労するんだから、ウチだって当然苦労するんだな」と思いましたね(笑)。岡田メソッドは「速くパスを回して相手の空いているところを見つける」というのが前提。でも、あれだけがっちり守られると、どんなにパスを回しても簡単には相手の穴は見つからない。吉武もいろいろ工夫してやってくれていたんだけど、ああいう場面になるとセットプレーで何とかするしかないと思ったね。
――ただセットプレーに活路を見いだすにしても、今治のフィールドプレーヤーには高さがあって空中戦に強い選手がいないですよね。あえて高さよりも俊敏性のある選手を選んでいたんでしょうか?
いやいや、本当は高さのある選手を獲りたかったですよ。結局ダメで、集めてみたら小さい選手ばっかりで。(田中マルクス)闘莉王とかいてくれたらよかったんだけど(笑)。
――いずれにせよ、昨年に続いて全社は2回戦で敗退して、地域CLに挑むことになりました。1次ラウンドで同組になったのは、ノルブリッツ北海道、SRC広島、そしてヴィアティン三重。スカウティング的には「1位で抜けられる」という見通しだったんでしょうか?
そうですね。三重が少しやるというのは聞いていたけれど、「そんなに抜群ではない」という話は聞いていた。特に広島なんて(中国リーグで)優勝してから、ほとんど試合もできていなくて、週2回くらい集まって練習するくらいだと。だからウチにとっては、ものすごくラッキーな組み合わせだったよね。
――実際、初戦の北海道には3−0、広島には8−0でいずれも本来のスタイルを発揮して相手を圧倒しました。おそらく選手も「このまま自分たちのサッカーを貫けば、今年は抜けられる」という思いが芽生えていたんじゃないでしょうか。
それはそうでしょう。俺自身、このまま行けると思ったもん。「ヴィアティン? 大丈夫でしょう」みたいな感じで3試合目に臨んだら……。
――あっと驚く0−3ですよ!
立ち上がりの段階で、ボールに詰める甘さとか、取られてからの切り替えの遅さとかは気になっていました。気迫が感じられない。相手はやはりブロックを作ってくるんだけれど、「俺たちうまいから、そのうち点が入るだろう」という慢心があったんだろうね。そうしたら10分間で立て続けに3点を入れられて。だからハーフタイムで「お前ら、いい加減にしろ!」と怒鳴ったんだよ。それで後半、多少は球際に行くようになったけれど……。あれはやっぱり、負けるべくして負けた試合だったね。
「いい教訓」になった第3戦での敗戦
ヴィアティン三重戦ではまさかの3失点。指揮官の吉武博文監督もこの表情 【宇都宮徹壱】
もちろん危機感を抱きました。やっぱり相手も必死で研究して、対策を立ててくるから、簡単にはいかないんだなと。ただ、あの敗戦は、すごくいい教訓になりましたよね。選手はもちろん、俺や吉武にとってもね。あんないい加減な失点をしているようでは、絶対に地域CLを勝ち抜けないわけですよ。
――確かに、1次ラウンド3戦目の結果はショッキングなものでしたが、あそこで三重に当たったのはラッキーだったとも思っています。グループの2強2弱が明らかで、お互いに連勝して得失点でも優位な立場で当たったわけですから。逆に初戦や第2戦に三重と当って0−3だったら、チームを立て直すのは非常に難しかったと思います。
あの大会を勝ち抜いた経験のあるやつに聞くと、みんな「もう二度とやりたくない」って言いますよね。じゃあ、勝因は何だったのかと聞くと「運だ」と。もう一度やって、また勝ち抜けるとは思えないと言うわけですよ。戦術ではなく、メンタルやフィジカルコンディションですべてが決まると。本当は、そういう大会というのは(レギュレーションを)変えないと日本サッカーのためにならないと僕は思っている。
ただそうはいっても、われわれはここを超えなければならないし、そのために耐えなければならない。これはよく言うんだけど、何かを成し遂げるには「能力×情熱×考え方」だと。能力は分かりますよね。情熱というのは、絶対に負けないという強い意思。それプラス「そこで人生を懸けられるかどうか」という考え方なんですよ。そうした考え方というのは、とことん追い込まれた時にこそ芽生えると思っている。だからあの1次ラウンドは、まさにそういうものが芽生えるタイミングだったと思っています。
(後編は12月21日に掲載)