FC今治にJFL昇格をもたらした3つの要因 地域CL、悲願達成までの戦いを振り返る
今治が地域CLで優勝したことの意義
地域CL優勝とJFL昇格の喜びをサポーターと分かち合う、FC今治の吉武博文監督と選手たち 【宇都宮徹壱】
FC今治の吉武博文監督は、普段はめったに見せない満面の笑顔を浮かべながら、今治から駆け付けたサポーターにこう訴えた。全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)決勝ラウンド最終日となる11月27日、すでにJFL昇格を確定させていたFC今治は、三菱水島FCとの第3戦に3−0で勝利(長尾善公が2ゴール、上村岬が1ゴール)。今治は第1戦で鈴鹿アンリミテッドFCに2−1、第2戦でヴィアティン三重に3−0で連勝しており、悲願のJFL昇格を地域CL優勝という快挙で飾った。指揮官のみならず、今治のすべての関係者が歓喜に沸いたのは言うまでもない。
全国9つの地域リーグのチャンピオンと、全社(全国社会人サッカー選手権大会)の上位3チーム、合計12チームが集う地域CL。1次ラウンドを勝ち上がった4チームのうち、3チームが全社枠で、地域のチャンピオンは四国リーグを制した今治だけ。今年、地域決勝から地域CLに大会名称を変更したものの、「これではチャンピオンズリーグではないじゃないか」という声も一部ではささやかれていた。
その意味でも、今治の地域CL優勝の意義は大きい。また、他の地域リーグと比べてレベルが高いとは言い難い四国リーグから、チャンピオンが生まれたのも感慨深い。四国のクラブがこの大会を突破したのは、2010年のカマタマーレ讃岐以来のこと。その讃岐も、4年後の14年にはJ2に到達している。そうして考えると、今治がJクラブとなるのも、それほど遠い未来の話ではないのだろう。
そして今治が地域リーグを卒業することで、四国リーグや地域CLに中央のメディアが殺到するという「異常事態」も緩和されるはずだ。長年、地域リーグを取材してきた立場からすると、このマイナーなカテゴリーが注目を集めることにうれしさを感じる反面、「ちょっと騒ぎすぎでは?」と感じることもしばしばであった。それだけFC今治というクラブは規格外の存在だったのである。これで日本の5部リーグも、嵐が過ぎ去ったように静かになることだろう(もっとも、来季のJFLは騒がしくなるだろうが)。
不格好ながらも勝ち点3をもぎ取った鈴鹿戦
初戦の鈴鹿戦は桑島良汰(18)の2ゴールで勝利。内容よりも結果重視で勝ち点3をもぎ取った 【宇都宮徹壱】
試合が始まると、前線に見慣れない選手がいることに気づいた。左ウィングで起用されていた、20番の小野田将人である。1次ラウンドのSRC広島戦ではセンターバック(CB)で起用されているが、どちらかというと守備のバックアッパーという印象であり、「もともとFWをやっていた」(吉武監督)といっても、攻撃面での貢献はあまり期待できそうにないと思われた。ところがこの小野田、本職がCBだけに1対1では負けないし、今治の選手の中では上背もある(180センチ)。小野田の前線からの迫力あるプレッシングは、左サイドバックの中野圭の攻撃参加を促進させた。
この起用は、前半19分に実を結ぶことになる。前線での小野田からのパスを受けた中野の低いクロスに、桑島良汰が右足ダイレクトでネットを揺らして今治が先制。このゴールで今治の選手たちはプレッシャーから開放されたものの、以後は鈴鹿のアグレッシブなプレーに阻まれて、持ち前のポゼッションサッカーをなかなか展開できない。後半12分には、小澤のFKから吉川拓也に高い打点から決められて同点に追い付かれてしまう。空中戦という弱点を突かれてしまった今治だったが、それでも彼らの気持ちが折れることはなかった。後半21分、水谷拓磨からの縦パスを受けた桑島が、巧みに反転して今度は左足で決めて、これが決勝点となる。今治は重要な初戦で、勝ち点3を確保した。
試合後、今治の吉武監督は「守備はすごく頑張ったが、ボールを長く保持したいというところでは、そんなにいいゲームではなかった」と語っている。確かに、チームが理想とするポゼッションを高めて主導権を握るサッカーは、序盤の20分くらいしか続かなかった。その意味では「そんなにいいゲームではなかった」のかもしれない。
とはいえ地域CLで何より求められるのは、内容以上に結果である。この日の今治は、ポゼッションが通用しなくなると、ショートカウンターとドリブルに切り替え、さらには1対1の局面でも安易なパスに逃げずにしっかり戦えていた。「なんだ、やればできるじゃないか!」と苦笑したくなるほど、この日の今治の選手たちからは、たくましさと泥臭さが感じられた。このチームなら、決勝ラウンド突破も決して夢ではない──そんな期待を抱かせる、決勝ラウンド初戦であった。