大谷はMLB含めても球速歴代トップ10 ダルビッシュも目指す100マイルの向こう

丹羽政善

パ・リーグCSファイナルステージで日本最速となる165キロを記録した大谷 【写真は共同】

「ある試合で負けた日のことだ」

 4年半ほど前、1979年にMVPを受賞し、引退後はロッキーズとカブスの監督を務め、昨年までエンゼルスの打撃コーチだったドン・ベイラー氏に、エンゼルス時代にチームメイトだったノーラン・ライアンの100マイル(160.9キロ)超えの逸話を尋ねると、ライアンの体の強さを物語る事件を振り返った。
 
「移動するバスの前の方で若い選手らが騒いでいた。ライアンはそれが我慢できなかったんだろう。後ろの方に座っていたけど、両足で押すようにして前の座席をバリバリと、バスの床から引きはがしてしまった。ボルトで止めてある椅子だぞ。(椅子を破壊する)あの丸太のような太もも――。あのとき、100マイルを投げる体を支えているものを見たような気がした」

 日本でも“カリフォルニア超特急”という異名でも知られたライアンは、74年に100.9マイル(162.4キロ)を記録。それが世界最速としてギネスブックにも掲載されたが、それは当時のスピードガンによる計測であり、現在、一般的に球速測定で使用される「PITCHf/x」を用いれば、108.1マイル(174.0キロ)だったとの説もある。100マイルを投げる投手がほぼ皆無だった時代の話。ライアンの存在は異彩を放った。

MLBでは珍しくない100マイル

 時代は変わり、今や、MLBにおいては100マイルの球を投げる投手は少なくなく、MLB全30球場に設置され、球速、回転数、打球スピードなどをはじき出す「Statcast」によれば、今年のレギュラーシーズンでは31人が100マイル(4シーム、2シーム、カッター)以上をマークした。そのうち16人は、上記3球種において100マイル以上の比率が全投球数の1%以下という“瞬間風速”だが、カブスのアロルディス・チャプマンとブレーブスのマウリシオ・カブレラの2投手は、同条件の比率が50%を超え、コンスタントに100マイルの球を投げ込んでいる。

 特にチャプマンは、31人によって投じられた100マイル越えの全1379球のうち、球速トップ50球をすべてたたき出しており、別格。今季は105.1マイル(169.1キロ)という自己最速タイもマークし、MLB公式ページのSTATCAST球速ランキングは、「チャプマン・フィルター」と名付けられているほどだ。
(参照:baseballsavant.mlb.com)

大谷も上位にランクイン

 さて、これまでそうした最高球速の話題に日本人選手が絡んでくることはなかったが、先日、北海道日本ハムの大谷翔平が自身の日本最速記録を更新する165キロ(102.9マイル)をマークすると、米メディアもそれを報じた。102.9マイルはMLBでも例外的な数字。2016年のランキングでは3位に相当する。

2016年の球速トップ6 (Fangraphs PITCHf/x)
1.アロルディス・チャプマン(ヤンキース→カブス):105.1マイル
2.マウリシオ・カブレラ(ブレーブス):103.2マイル
3.大谷翔平(日本ハム):102.9マイル ※札幌ドーム
4.ネーサン・イオバルディ(ヤンキース):101.6マイル
5.ノア・シンダーガード(メッツ):101.4マイル
6.デリン・ベタンセス(ヤンキース):101.0マイル
(参照:CheatSheet.com)

 また、参考記録を含めても、大谷の102.9マイルは歴代トップ10に入る。

歴代最速 (注釈がない場合は「PITCHf/x」のデータ)
1.ノーラン・ライアン:108.1マイル(※レーダーガン)
2.ボブ・フェラー:107.6マイル(※クロノグラフ)
3.アロルディス・チャプマン:105.1マイル 
4.ジョエル・ズマヤ:104.8マイル  
5.ネフタリ・フェリス:103.4マイル
6.アンドルー・キャッシュナー:103.4マイル
7.ヘンリー・ロドリゲス:103.3マイル
7.ボブ・ターリー:103.3マイル(※クロノグラフ)
9.マーク・ウォーラーズ:103.0マイル(※レーダーガン)
10.大谷翔平:102.9マイル(※札幌ドーム)
(参照:eFastball.com、CheatSheet.com)

 ライアン、フェラー、大谷らの球速は、MLB各球場に設置されている「PITCHf/x」、あるいは「Statcast」のシステムで計測したわけではないので、誤差がどの程度かということになるが、ざっと大谷をランキングに当てはめるとこうなり、彼は現在、いや、歴代でも世界屈指の球速を誇る1人と捉えていい。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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