J2の主役を演じる札幌 躍進の礎は3年前に築かれた

斉藤宏則

本格的なチーム作りは13年がスタート

清水やC大阪、J1からの降格組たちを抑えて首位を走る札幌。J2の主役を演じていると言っていい 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 J2第9節からの5試合連続1−0での勝利を含め、7節から9戦負けなしの快進撃。強力な選手層を誇る清水エスパルスやセレッソ大阪、J1からの降格組たちを抑えて首位を走る北海道コンサドーレ札幌は現在、J2の主役を演じていると言っていいだろう。昨季、一昨季共に10位に終わったチームが、今季は快調に勝点を積み重ねている。

 果たしてその要因はどこにあるのか? 本稿の趣旨は当然、そこになるのだが、言うまでもなく何かひとつが首位浮上の要因になるほど勝負の世界は簡単ではない。ありきたりな表現で恐縮だが、チームというのはお菓子のミルフィーユのように薄い生地をひたすら丁寧に積み重ねていってこそ、強固な最終形が出来上がるというもの。何かひとつをクローズアップするというよりも、1枚1枚を見いだしていくことで現在の札幌の輪郭を浮かび上がらせていきたい。

 今季の札幌を見ていくうえで絶対的に欠かせないのは、本格的なチーム作りが2013年からスタートしているということ。前年(12年)にJ1最下位で降格の憂き目に遭い、強化費の大幅削減を余儀なくされたことでチームは大幅な若返りが図られた。金額としてはおよそ3億円ほど。これはJ2でダントツの最下位になった04年のそれとほぼ同額である。そうした背景も一因となり、主軸の大半が移籍、所属選手の半数以上がアカデミー出身の自前の選手もしくは北海道内出身選手となったのである。

 それを束ねる指揮官もクラブ史上初となる北海道出身者の財前恵一監督(現ロアッソ熊本コーチ)となり、トップチームでの指揮が初経験の指揮官が野心的にアッタッキングスタイルのサッカーをたたき込んで8位へと食い込んだ。前年はJ1だったという視点に立てば8位は決して上々な戦績ではないが、前述したように強化費が大幅削減され、主力の大半が移籍をした。ひとつ間違えばJ2でも残留争いを強いられる可能性があったことも否定できない状況だった。そうしたなかでの8位フィニッシュはクラブに大いなる勇気を与え、財前氏の手腕を証明することにもなった。

躍進の礎となる2つのベクトル

深井(8番)らユース出身選手が多く在籍する札幌。四方田監督にとって、現在のチームは愛弟子たちが名を連ねている 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 14年の秋口からはクロアチア人のイビツァ・バルバリッチ監督が就任し、ここでは緻密な守備メソッドが注入される。とりわけ15年シーズンの序盤に導入されたオールコートでのハードプレスは威力十分で、戦術のキーマンだった都倉賢と稲本潤一が負傷離脱するまではリーグを席巻する勢いを見せていた。

 そうしたなかで昨シーズン途中から就任した四方田修平監督は前任者たちが築いた土台を生かしながら、そこに自らのスタンスを大量に落とし込むことで攻守ともに安定感のあるチーム作りを展開し、現在の成績につなげている。02年から10年以上もアカデミーで指導、選手の輩出を担ってきた四方田監督にとって、現在のチームは愛弟子たちが名を連ねている。そこに小野伸二、稲本らビッグネーム、さらには3人のブラジル人選手とU−23韓国代表GKク・ソンユンがそろう充実の構成。04年から着手した育成型クラブへの転身と13年からのリスタート。その2つのベクトルがブレなく重なり、現在の躍進の礎となっていることは確認しておきたい。

 具体的な今季の戦い方に目を向けると、ソリッドな戦術がメンバー構成と見事にマッチしている。5バックの前に2〜3枚のボランチによるフィルターを敷き、危険なエリアにボールを入れさせない。奪ったボールは都倉、内村圭宏、ジュリーニョという縦への速さ、強さを持ったアタッカーにシンプルに預ける。「いい守備をして、いい攻撃に移る」という四方田監督が掲げるサッカーが完全にハマっている。札幌のアカデミー出身者はフィジカルコンタクトに強さがある選手が多いため、テクニカルなポゼッションサッカーだけでなく、球際でのタフなボディコンタクトを押し出した本質的なゲームも演じられるところがまた強みでもある。

 試合の運び方は前々回J1昇格を果たした07年シーズンに近似しているように思う。ロジカルかつ強固なゾーンディフェンスを基本戦術とする三浦俊也監督が率いた同年はシステムこそ4−4−2だったが、人数を割いた守備網を敷いて0−0のまま時計の針を進め、わずかなチャンスを効率的に得点に結び付けようという今大まかなコンセプトは今季の戦いぶりと共通している。

 代表的なのは4節の清水戦(2−0)だろう。この試合ではチーム戦力に勝る清水にボール保持をされながらも、5バックの前に3ボランチを配置し、サイドにボールを追い込んでは一気に手厚く囲いこんでサイドチェンジをさせなかった。そうして守りを固めて試合をクローズさせ、相手のオウンゴールとセットプレーからの得点で狡猾に勝利してみせたのである。その後の試合でも、終盤に徹底して押し込まれながらギリギリのところで勝利した試合がいくつもあり、足をつらせる選手が続出して「パニックになった」と指揮官が試合後に本音を吐露したこともあった。そうやって接戦をなんとかくぐりぬけて、現在の立ち位置がある。

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著者プロフィール

1978年北海道生まれ。北海学園大学経済学部卒。札幌市を拠点に国内外を飛び回る。サッカーでは地元のコンサドーレ札幌、各年代日本代表を中心に、ワールドカップ、五輪、大陸選手権などの国際大会にも精力的に足を運ぶ

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